神社仏閣などを運営する宗教法人は基本的に法人税がかかりません。
清廉なイメージから非課税であることに違和感はないかもしれませんが、私たちはお布施や玉串料などの名目で宗教法人にお金を支払うこともあります。それに加え、不動産などの事業を行っている場合もあります。
では、どうして宗教法人は非課税なのでしょうか?
本記事では、まず宗教法人が非課税である理由について簡単に解説します。
また、ときどき宗教法人の資産運用がニュースなどで取り上げられることから、宗教法人の資産運用の事情と、宗教法人に向くと考えられる資産運用についても紹介します。
宗教法人が非課税である理由
宗教法人が非課税である理由は公益性にあるといわれています。信仰の自由は憲法で保障された私たちの権利であり、そのために活動する宗教法人は社会への貢献が大きいことからこういった優遇が設けられたのでしょう。
しかし宗教法人の税制については誤解されるケースが多いようです。より正確に知るため、以下の2点についても押さえておきましょう。
- 非課税は宗教法人だけの特例ではない
- 税金が全くかからないわけではない
以下の公益法人などは基本的に法人税がかかりません。宗教法人はその中の1つという位置づけです。またこれらの法人であっても、収益事業から得られた利益は法人税がかかります。
- 宗教法人
- 公益社団法人・公益財団法人
- 学校法人
- 社会福祉法人
- 独立行政法人
- 認定NPO法人
※収益事業は課税の対象
宗教法人だけが優遇されているわけではなく、また収益事業は一般的な法人と同じく納税している点も覚えておきましょう。
宗教法人も資産運用できる
一概にはいえませんが、宗教法人も基本的に資産運用が可能です。法令などから理由を確認しましょう。
資産運用は収益事業に含まれない&収益事業は禁止されていない
宗教法人は「公益事業」と「収益事業」の2つを行えると宗教法人法で定められています。基本的には公益事業を行うものとされており、収益事業は副次的な位置づけです。
【宗教法人法6条「公益事業その他の事業」】
宗教法人は、公益事業を行うことができる。
宗教法人は、その目的に反しない限り、公益事業以外の事業を行うことができる。この場合において、収益を生じたときは、これを当該宗教法人、当該宗教法人を包括する宗教団体又は当該宗教法人が援助する宗教法人若しくは公益事業のために使用しなければならない
そして収益事業は具体的に以下34の事業が定められています。ここに宗教法人が自身の財産を用いる資産運用は含まれておらず、仮に収益事業であっても一様に禁止されているわけではありません。したがって宗教法人は資産運用が可能だと考えられます。
物品販売業 | 請負業 | 仲立業 | 遊覧所業 |
---|---|---|---|
不動産販売業 | 印刷業 | 問屋業 | 医療保健業 |
金銭貸付業 | 出版業 | 鉱業 | 技芸教授業 |
物品貸付業 | 写真業 | 土石採取業 | 駐車場業 |
不動産貸付業 | 席貸業 | 浴場業 | 信用保証業 |
製造業 | 旅館業 | 理容業 | 無体財産権の提供業 |
通信業・放送業 | 料理店業その他飲食店業 | 美容業 | 労働者派遣業 |
運送業・運送取扱業 | 周旋業 | 興行業 | |
倉庫業 | 代理業 | 遊技所業 |
ただし、宗教法人の財産については濫用が禁止されています。投機的な資産運用は法に触れる可能性があるでしょう。
【宗教法人法18条「代表役員及び責任役員」(一部抜粋)】
代表役員及び責任役員は……、その保護管理する財産については、いやしくもこれをほかの目的に使用し、又は濫用しないようにしなければならない。
住職や僧侶個人の税金は一般と同じ
非課税の特例はあくまで宗教法人に与えられており、そこで働く住職や僧侶個人は基本的に課税の対象です。宗教法人から支払われる給与も所得税が課税されます。また宗教法人と個人の財産は明確に分けるよう義務付けられており、混在は許されていません。
つまり税制上は宗教法人と住職や僧侶個人は別の人格であり、課税の仕組みは私たちと基本的に同じです。したがって資産運用も私たちと同じく課税の対象であり、原則可能だと考えられるでしょう。
宗教法人に考えられる資産運用
上述のとおり、宗教法人は資産運用できますが、投機的なものは制限される可能性があります。宗教法人が資産運用を行うにはどういったものがよいのでしょうか。
宗教法人の運営は宗教法人ごとに定められた規則に従うものとされているため、どこまでの資産運用が許されるか一概に断じることはできません。ただし投機的な資産運用は認められない可能性が高いことから、ここでは比較的リスクが低いと考えられるものについて紹介したいと思います。
土地の活用
宗教法人の事情によりますが、宗教法人は比較的大きな土地を保有しているケースがあります。立地の条件が良ければ駐車場などに転用し一定の収入を得られるかもしれません。
なお、土地の活用は収益事業に該当する可能性があるため法人税には注意が必要です。
保険
保険は将来の損失に備える商品ですが、支払った保険料以上に満期金や解約返戻金を受け取れる場合があるため資産運用に用いられるケースもあります。これらのお金は契約に従うため不測な事態が起こりにくく、計画的な資産運用が求められる宗教法人に向くでしょう。
もちろん住職など宗教法人の代表者に万が一があった場合は死亡保険金を受け取れるため、その後の運営を経済的に支えられるメリットもあります。
債券
債券は国や企業が利息と元本の支払いを約束し発行する商品です。資金調達を目的に発行され、投資家は資金を供給する見返りとして利息を受け取ります。途中で売却しない限り、事前に受け取れる利息が確定的なため宗教法人に向くでしょう。
ただし債券には発行者の破綻リスクがあります。発行者の財務が健全な限り利息と元本は約束どおり支払われますが、発行者が破綻すると基本的に支払われません。破綻リスクを抑えたい場合、国が発行する「国債」、または企業が発行する「社債」のうち大企業のものを選ぶといいでしょう。
ヘッジファンド
ヘッジファンドは機関投資家や富裕層向けの運用会社です。投資家に代わってプロが資産を運用し、その損益は投資家に帰属する仕組みとなっています。つまり“プロにおまかせ”の商品といえるでしょう。
ヘッジファンドは同じく公益法人である学校法人に採用されているケースが珍しくありません。例えば「国際基督教大学」は基金の一部をヘッジファンドにまかせているほか、海外ではハーバード大学やイェール大学といった有名校がヘッジファンドで基金を運用しています。
ヘッジファンドがこれら基金に採用されている理由は、ヘッジファンドが比較的リスクの低い運用を行う点にあるでしょう。多くのヘッジファンドは市場全体の影響を受けず一定の収益を獲得できるよう運用します。特に買いと売りを同時に行うリラティブバリュー型のヘッジファンドは低いリスクで運用できるでしょう。
保険や債券と異なり収益が確定的とまではいえませんが、資産運用の中では比較的リスクが低い方法だと考えられます。宗教法人も資産運用として一考の余地があるでしょう。
まとめ
本記事の内容を以下にまとめました。
- 宗教法人が非課税なのは公益性が高いから
- ほかの公益法人も非課税&収益事業は課税される
- 宗教法人の資産運用はリスクが低いものが向く
宗教法人は公益性が高いことから法人税が基本的にかかりません。しかしそれはその他の公益法人も同様であり、また仮に収益事業を行えば法人税は発生します。また宗教法人で働く住職などの職員は私たちと同じく課税の対象です。無限に非課税ではない点に注意しましょう。
宗教法人も各法人の規則に反しないものであれば資産運用は可能だと考えられます。ただし投機的なものは認められない場合があるため、比較的リスクが低いものが望ましいでしょう。所有する土地の活用のほか、保険や債券、またヘッジファンドなどが向いていると考えられます。