近年、富裕層に位置づけられる世帯の資産額が、著しく伸びています。

2011年には約144兆円であった資産額が2015年には約197兆円と、36.8%もの増加です。

この増加率は最も多くの世帯が含まれているいわゆる「マス層」よりも多く、保有資産額の格差が広がっている状況です。

このように富裕層が資産を増やしていることには、現在一般的となりつつある「投資」も関係していると言えそうです。

富裕層になればなるほど運用に回せる資金が多くなるため、資産を増やしやすいということは言えるのですが、他にもポイントがあるのでしょうか。

 

こちらでは富裕層が持っている金融資産や、富裕層の投資に見られる共通点を紹介しながら、その投資のポイントについても考察します

一般的には、イメージなどから漠然と線引きされてしまうことの多い、お金持ちとそうではない人の分類ですが、実際にも、これと決まった明確な基準は定められていません。

統計をとった企業ごとに基準が決められていて、年収2千万円以上を富裕層を位置づけることもあれば、納税額が3千万円以上の世帯を富裕層にすることもあるようです。

 

しかし、日本で現在多く用いられているある基準によると、純資産額が1億円以上5億円未満の人を富裕層と位置付けます。

純資産額というのは、貯金や株式などの資産額から、借金の額を引いた金額のことです。

ローンを組んで建てた家は、ローンが残っている限りは例え豪邸であっても資産に入りません。

また、年収2千万円の会社員は一般的には充分にお金持ちと言える範囲ですが、資産額が1億円ない限りは富裕層ではありません。

また、この基準では純資産額が5億円以上になると超富裕層とされています。

日本における2013年の調査では、富裕層世帯はおよそ100万世帯、超富裕層は5万4千世帯でした。

この数は世界的に見ても非常に多く、数字上では日本はお金持ちの国となっています。

ちなみにアメリカのコンサルティング会社の調査によると、資産1億ドル以上の世帯となると日本はランキング外となってしまいます。

それなりに富裕層は多いのですが、誰もが名前を知っているような大富豪となると日本は少ないようです。

1、富裕層が持っている金融資産はコレ!

 

では、富裕層が実際に持っている金融資産はどのようなものなのでしょうか。

 

会社を経営していた60代の男性は、運用開始時の資金は5億円でした。

これを国内と国外、半分程度に分けて分散投資をしています。

投資対象は株や債券などです。国内投資に限っての割合は株式が7割、債券が3割程度です。

長期保有が基本で、地に足の着いたしっかりとしたビジネスを展開している商社株などを選んでいます。

 

次は、大手商社の役員をしていた男性のケースです。

退職金と貯蓄を合わせた1億円を元手にして、運用を開始しました。

国内株式と投資信託が投資の中心です。株式は大手商社や自動車会社関連株が中心です。

含み益がある状態ですが、例え価額が上下したとしてもその都度売却したりはせずに、保有し続けることを選択しています。

配当金だけで満足できる金額を得ていることと、自らが企業の製品や経営者の手腕に惚れ込んで選択した銘柄であることが、売却しない理由です。

 

現在1億円から1億5千万円前後を運用に回している男性も、分散投資を心がけて行っています。

国内と国外の割合はおよそ半々です。

国内の内訳は不動産投資信託が7割程度で、残りが株式です。国外は、米国株と米国企業の社債を半分ずつ程度で保有しています。

国内株は短期的な価格の上下を狙っている訳ではないため、利回りや安全性を重視して選んでいます。

2、富裕層の投資のポイント1~投資対象は株式が中心~

 

前項のいくつかの例を見る限り、富裕層の投資方法にはいくつかの共通点があります。

 

その1つが、投資対象です。

どの運用例を見ても、そこには株式が含まれています。

特に国内投資においては株式の割合が高いです。さらに、選ばれている銘柄も、大手の商社株や自動車関連の会社の株など、歴史が長く経営が安定している企業の株が多いのです。

つまり富裕層は、目新しい投資に手を出したり、価格の上下の激しい株式を選ぶなどの冒険をして資産を増やそうとしているのではなく、あくまでも投資自体は、ごくオーソドックスなことをじっくりと行っているにすぎないことが分かります。

3、富裕層の投資のポイント2~分散投資~

 

分散投資も富裕層の運用例に見られる共通点です。

国内と国外で、資金を大体半分程度の割合に分けて投資を行っています。

また、1つの株式だけには資金を集中させずに、複数の企業銘柄を保有しています。さらには、債券や投資信託などにも資金を分散させています。

分散投資は投資のリスクを低減させることのできる基本的な方法ですが、単に複数銘柄を持てば良いというわけではありません。

 

そのポイントは、国内と国外、異業種株、さらにそこに債券や投資信託も含めるなど、全てをバランス良く持つことにあります。

国内と国外に分けることで、為替の影響を相殺させることができます。

株式でも同じような業種に偏らず異業種株を持つことで、ある業界全体が不況になった時であっても、他の業種の株でバランスを取ることができます。

そこに債券や投資信託なども加えることで、よりリスクを分散させることができるのです。

富裕層はこのように、分散投資の基本に忠実な手法をとっていると言えます。

4、富裕層の投資のポイント3~長期保有が中心~

 

富裕層の投資においては、短期的な視点で株の売買を繰り返して利益を出そうとするのではなく、長期的に株を保有することを基本としていることも共通点です。

勿論、中には短期の売買を繰り返している人もいるかもしれませんので、あくまでも参考ではありますが、時折銘柄の追加や入れ替えなどは行うものの、少なくとも数カ月から数年間は同じ銘柄を保有しているケースが多いようです。

 

この理由としては、そもそも株の銘柄を選ぶ時の視点の違いが挙げられるでしょう。

富裕層は、株の売買そのものによって利益を得ようとするのではなく、安定した利回りを求めて銘柄を選んでいる場合が多いのです。

自然とそうした銘柄は、経営のしっかりした安定した大企業などに絞られてきます。

頻繁に銘柄を入れ替えようとしても代わるようなものは中々見つからず、そもそも変える必要性もあまりないのです。

5、富裕層の投資のポイント4~自分の目で選ぶ~

 

富裕層ともなればほとんどが、誰か他の人に資産を預けて運用を任せているのかというと、意外とそうではありません。

どのような割合で分散投資を行うのかということから、どの銘柄を選ぶのかまで、他人任せにはせずに自分で決めていることがほとんどです。

 

中には、株式の銘柄を選ぶ際には工場見学などを利用して自ら企業に足を運び、納得した企業の株を選んでいるという人もいます。

金融機関や証券会社などの言いなりにならず、自らの頭と足を積極的に使い、能動的な姿勢で向き合うということも、富裕層の投資に見られる共通点と言えそうです。

6、近年ではヘッジファンドやPBも人気

 

これまでは、自分で銘柄から投資割合まで決めるという富裕層の投資例を見てきましたが、その一方では、資産を預けて運用を任せる形のヘッジファンドやPB(プライベートバンク)の人気もやはり高くなっています。

 

ヘッジファンドは、デリバティブ取引や空売りなどを行うことも認められている、運用の自由度が高い私募ファンドです。

「絶対収益」の投資が基本姿勢で、市場が全体的に値下がりしている時であっても収益を上げることを目標としています。

そうした姿勢と実際の運用成績の良さから、近年富裕層からの資金流入が増えていると言われています。

 

私募ファンドであるがゆえに、1人1人から集める資金額は高額で、海外のファンドでは最低金額が1億円というケースもあります。

日本国内では数千万円のことが多いですが、安い所であれば数百万円のファンドもあります。

PB(プライベートバンク)というのは、富裕層向けのサービスを行う金融機関です。

特徴的なのは、自社商品がないという点です。

 

通常の証券会社などであれば、自社商品との関係上、完全に顧客本位のポートフォリオは組みづらいという難点がありますが、PBはそのような縛りがないため、自由にポートフォリオを入れ替えられます。

PBの最低預入金額は1億円が基本で、口座開設の際には厳格な審査がありますが、信頼感を背景に、近年口座を開きたいという富裕層が増えています。

「増やすよりも減らさない投資」で資産をさらに拡大させる富裕層

富裕層は、決して珍しい投資手法を使ったり、目新しい商品に投資している訳ではありません。

むしろ伝統的な株取引が中心です。そして、徹底した分散投資や株の銘柄の選び方、短期売買よりは長期保有であることなどを見ると、資金を増やすということよりは減らさないようにすることを第一に考えて資産運用を行っていると言えます。

この、「増やすよりも減らさない」という姿勢が、最終的には富裕層の資産を拡大させている一番の要因でしょう。

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