近年、日本でも「アクティビスト」と呼ばれる投資家の存在感が増しています。

アクティビストとは日本語では「物言う株主」という意味で、企業に対して積極的に働きかけることで企業の価値を高め、結果として自らの利益につなげようとする投資家のことを指します。

 

アクティビストファンドはヘッジファンドの1つに含まれますが、投資手法や戦略をどちらかというと公にしたがらない通常のヘッジファンドとは異なり、アクティビストファンドは株主総会などでも積極的に提案を行うことが特徴です。

アクティビストが存在感を増しているのには、どのような背景があるのでしょうか。

アクティビストが企業に対して行う要求の内容などと共に、解説していきます。

もともと、アクティビストの活動が盛んになり始めたのは1990年代後半、米国でのことです。

日本においては2000年代の最初、あるファンドの発言などがニュースで注目を浴びたのが、ヘッジファンドやアクティビストファンドという言葉が知られるようになったのが始まりでしょう。

 

しかし、その存在が認知された決定的な出来事は、2007年に米国のアクティビストファンドが、日本の大手食品企業に敵対的買収を仕掛けた事件です。

この時には連日のように動向がニュースで報じられ、最終的には訴訟にまで発展しました。

結局買収は成功しなかったのですが、これをきっかけとして、日本においても「アクティビスト」の存在が広く知られるようになったと言えます。

 

リーマンショックの影響などで一時期その活動は目立たなくなったものの、近年は再び、アクティビストの活動が世界的に見ても活発化していると言われています。

米国で2015年、総合化学業界大手2社の経営統合が発表された背景には、とあるアクティビストファンドの存在があるとされています。

また、日本においても株主総会でのアクティビストの動向に注目が集まることが増えています。

1、アクティビストがとる戦略とは?

アクティビストは企業に対してさまざまな要求を出すことが特徴です。

主な要求としては、事業再編・取締役等の交代・自社株買い・M&Aなどが挙げられます。

このような要求を通して企業経営の効率化を促し、株主の利益を最大化しようとすることがアクティビストの目的です。

 

つまり、企業が効率的に経営されていないと思われるような企業は、アクティビストにターゲットとして狙われやすいと言えます。

具体的には、現金を必要以上に保有しているなど資本効率が悪かったり、コーポレート・ガバナンスが機能していないと判断されたり、事業戦略の見直しが必要な企業などです。

こうした、改善の余地があるような企業に対して働きかけていくことがアクティビストの戦略です。

2、アクティビストが活発化している背景1~コーポレートガバナンス・コード~

 

アクティビストが活発化している背景に、コーポレートガバナンス・コードの存在があります。

まずコーポレート・ガバナンスについて説明すると、コーポレート・ガバナンスは「企業統治」という意味です。

企業価値を高め、企業の理念を実現するために、公平な経営を継続して行うための仕組みのことを言います。

コーポレートガバナンスに沿うことで、企業の違反行為を監視したり、経営者の暴走を防ぐことにもつながります。

 

そして、コーポレートガバナンス・コードというのは、コーポレート・ガバナンスに正しく取り組んでいるかどうか、外部から見て経営の透明性が維持されているかどうかを、明確にするために定められたルールです。

 

イギリスで用いられているものを参考に作られたもので、73個の原則で構成されています。

2015年に金融庁と東京証券取引所が中心となって定めました。

このコーポレートガバナンス・コードが、なぜアクティビストの活躍に関係してくるのでしょうか。

それはコードに定められている内容にあります。コードでは、上場企業に対して、政策保有株を縮減して資本効率を高めるような企業経営を要請しているのです。

先にも触れたように、アクティビストがターゲットとしやすい企業の1つに、現金や政策保有株の割合が多く自己資本比率が高い、つまりは資本効率が良くない企業がありますから、アクティビストはコードの内容を拠り所として、政策保有株の縮減などを迫るのです。

コードの内容を守ることが企業に義務付けられている訳ではありませんが、その内容に従わない場合、「なぜしないのか」という理由の説明が企業に求められます。

そのため、企業にとってコーポレート・ガバナンスに沿うようなアクティビストの要求は、退け難くなっています。

アクティビストの要求は、今後もこのコーポレートガバナンス・コードを拠り所としたものを主軸に展開されていくことが考えられます。

3、アクティビストが活発化している背景2~スチュワードシップ・コード~

 

スチュワードシップ・コードが定められたことも、アクティビストの活発化の背景にあります。

機関投資家が、投資先企業の株主総会などにどのような態度で臨むべきかを示した行動原則が、スチュワードシップ・コードです。

2014年に金融庁が作成しました。導入は強制ではないですが、導入した企業に対しては原則に基づいて具体的な方針を決めることになります。

このスチュワードシップ・コードでは、株主総会で提案された議案に対して、賛否の理由を開示することが機関投資家に求められています。

そのため、反対することに相応の理由がない限りは、アクティビストからの提案であろうと、機関投資家も賛成をせざるを得なくなってきているのです。

4、アクティビストが活発化している背景3~高い運用成績~

 

アクティビストを始めとするヘッジファンドは、どのような状況でも収益を上げることを目指す「絶対収益」が投資の基本姿勢です

その姿勢から来る高いリターンを求めて、近年、ヘッジファンド全体に流入する資産は増加していると言われています。

 

運用成績についても、2014年頭から2018年頭までを見てみると、アクティビスト戦略による投資に関しては33.5%増となっています。

これは、ベンチマークである株価指数が32.0%増であったことと比べても、それを上回る成績です。このことから、特に積極的にリターンを求める人は、近年のアクティビストの運用成績の良さを見て、資産を投じるようになってきているのです。

 

私募であるアクティビストファンドは、資金量があまり豊富でないところも多く、その場合はなかなか大企業株には手が出せません。

しかし、このように資金が流入することで、投資できる銘柄が増え、それがまたアクティビストの活躍の場を増やすという流れになっています。

5、多様化するアクティビスト

 

一般的に「物言う株主」、「アクティビスト」と言うと、企業に対する要求や提案が通らない時には、敵対的買収を仕掛けるなどの強硬な姿勢で企業と対峙するイメージがあるかもしれません。

2000年代初め頃までのアクティビストには確かにそのような傾向がありました。

しかし近年では、アクティビストと言っても必ずしもそのような強硬な態度に出るわけではなく、企業側と話し合いをしながら企業価値を高めていき、最終的に双方にとってより良い結果となるように動くアクティビストの存在が増えています。

 

このようなアクティビストは、企業株への投資に関しても、従来のように短期的な売買を繰り返して収益を上げるのではなく、中長期的な保有を前提に投資を行います。

 

また、アクティビストではありませんが、機関投資家もスチュワードシップ・コードの導入によって、株主議決時の企業に対する態度に変化を見せています。

つまり、「物言う株主」となりつつあるのです。機関投資家はポートフォリオの変更を容易にはできず、株式を長期にわたって保有することになります。

その観点から見ても、企業の価値を高めようと積極的に動くことは理に適ってもいるのです。

6、コーポレート・ガバナンスに沿った要求をするアクティビストと企業が向き合っていくためには?

 

アクティビストの企業に対する要求・提案は、事業合併や取締役の交代などさまざまですが、根本的には企業経営の効率化、つまりはコーポレート・ガバナンスに沿った経営の実現を要求するケースがほとんどです。

 

近年はコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードが作られたことによって、アクティビストが活動しやすくなってきている状況があります。

しかしそのことを別にしても、コーポレート・ガバナンスに沿った経営を求めるアクティビストから何らかの要求をされるということは、その企業がコーポレート・ガバナンスに沿っていないと見られているということでもあります。

 

企業はより緊張感を持って経営に臨み、真摯に株主の意見や提案に耳を傾けなければならない時代になりつつあると言えるでしょう。

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