本格的な高齢化社会を迎え、貯金と年金だけでは老後資金が不安だと考える人も少なくありません。
また、退職金をカットする企業も増えてきています。
そういった社会背景もあり、日本でも投資に興味を持つ人が増えてきました。特に注目を集めているのが「ファンドラップ」と「ヘッジファンド」です。
「ファンドラップ」はCMなどで耳にする機会が増えているものの、具体的な内容について知っている人はまだ多数派とはいえません。
「ヘッジファンド」も同様で、ファンドラップと混同されるケースすら見受けられます。この記事ではファンドラップとヘッジファンドの違いや、資産運用を行う場合はどちらを利用した方が有利なのかについて詳しく解説していきます。
1、「ファンドラップ」とは
個人投資家と証券会社の間の「投資一任契約」が特徴です。通常の投資は証券会社を通して特定の商品を購入したりする場合がほとんどですが、ファンドラップは証券会社に「お任せ」で運用してもらうという投資形態です。
つまり、いわゆる「ラップ口座」のひとつといえます。ファンドラップはラップ口座のなかでも、投資信託を中心として投資を行う「ミューチュアルファンド・ラップ」に分類することができます。
投資信託を中心にすることで分散投資が可能になるため、安全に資産を運用することが可能です。また、数十万円という小額からの投資が可能であることもファンドラップの特徴のひとつです。
「ヘッジファンド」も、投資家から集められた資金を投資のプロが代行して運用に行うという点ではファンドラップと同じです。
大きく異なるのは、ヘッジファンドは「私募」形式によって資金を集めるということです。投資信託などの一般的なファンドは、全て「公募」によって資金が集められます。
そのため、誰でも利用ができるというメリットがある一方、さまざまな制限が発生するというデメリットもあります。
私募形式のヘッジファンドは、一般の金融機関とは違い監督官庁などへの報告義務がなく、投資手法や投資対象への制限もほとんどありません。そのため、巨大な資金量でハイリターンを目指した投資を行うことが可能であることが大きな特徴です。
2、大きく違う「利回り」
ファンドラップとヘッジファンドでは、利回りが大きく異なります。
投資信託などによる運用が中心であるファンドラップは、よくて年利数%の利回りです。多少のリスクがある分、定期預金よりは少々高いというイメージです。
一方、ヘッジファンドの利回りは年利20%程度が一般的です。優秀なヘッジファンドでは、年利50%以上の利回りが得られることも珍しくありません。
私募形式で規制から自由であるため、ハイリスク・ハイリターンの投資が可能だからです。投資信託は株式や債券などの伝統的資産といわれるカテゴリーへの投資が中心になりますが、ヘッジファンドは先物や金融派生商品(デリバティブ)など、非常に広い範囲へ積極的に投資を行います。
また、ヘッジファンドは資金量が巨大であるために、時には相場そのものを動かしてしまうことさえ珍しくなく、数億円単位の取引が日常的に行われています。
ときには運用額が数兆円に達する場面もあります。資金の規模の大きさに加えて、ハイレバレッジの取引が行われることもヘッジファンドの特徴のひとつです。
「レバレッジ( leverage)」とは「てこ(の原理)」のことで、自己資本以外の力を利用することで、元の資本に対して数倍の資金量で取引をすることが可能になります。
これは一般のトレーダーでもなじみのある仕組みで、株の信用取引や為替証拠金取引(FX)などで利用されています。
ヘッジファンドは元の巨大な資金に10倍前後のレバレッジをかけることもあり、より高い利回りを追求しているのです。
3、「元本割れ」というリスク
一般に、投資信託などでの運用が中心のファンドラップは損をする確率が低く、ハイリスク・ハイリターンの取引が中心のヘッジファンドの利益は大きい分損をする確率が高いと思われがちですが、投資はそのように単純なものではありません。
あくまで投資手法の違いであり、特に投資信託は「元本割れ」が非常に多いことに注意が必要です。そのようになってしまう理由のひとつに、「収益についての考え方」の違いがあります。
投資信託などは「相対収益」という考え方にもとづいて運用を行います。投資の基準となる「ベンチマーク」を設定し、それを上回る運用を目指すという考え方です。
ベンチマークにはTOPIXや日経平均(日経225)などの「インデックス(株価指数や債券指数)」が採用されますが、景気が悪いときには当然これらも下がってしまいます。
こういった下げ相場の場合、投資信託の目標は「下げ幅をインデックスより小さくする」ということになります。
つまり、全体が下げ相場の場合は、ファンドの全体の収益がマイナスでもインデックスを上回っていれば良いということです。結果として、「元本割れ」でも相対収益がプラスであるという奇妙なことが起こってしまいます。
ファンドがインデックスを上回っていたとしても、投資家にとっては損失以外の何物でもないため、投資を検討する際にはあらかじめこの考え方を理解しておくことが大切です。
4、「ヘッジファンド」の利益は景気と無関係
ヘッジファンドは、マーケット全体が上げ相場であろうと下げ相場であろうと関係なく利益を追求します。
投資家にとってはごく自然なこの考え方を「絶対収益(絶対リターン)」と呼びます。ヘッジファンドは、もともと富裕層の資産を戦争などのインフレリスクから守るために始まりました。ヘッジファンドの「ヘッジ」とは、「(リスクなどを)回避する」という意味からきています。
ヘッジを行う際には「空売り」という手法が取られます。空売りは株や債券などの値段が下がるほど利益が増すという投資手法で、景況が下向きのときに資産を守るためには最適の手法です。
現在のヘッジファンドはこの手法を積極的に利用しており、ショート(売り)ポジションを立てて莫大な利益を追求することがヘッジファンドの主要な手法のひとつになっています。
ショート戦略で世界中に影響を与えたのが「クォンタム・ファンド(Quantum Fund)」のジョージ・ソロスです。
GBP(英ポンド)下落の際、英国政府の為替介入に対して大量のショートポジションを立てることで対抗し、一晩で約1000億円もの利益を獲得しています。このことからジョージ・ソロスは「イングランド銀行を潰した男」とまで呼ばれ、ヘッジファンドの力を一般の投資家にも知らしめました。
5、身近になった「ヘッジファンド」
このように、ヘッジファンドはロング(買い)ポジションとショートポジションを臨機応変に立てることで、マーケットの上昇時だけでなく下降時にも安定して利益をあげ続けることを目指しています。
一方、ファンドラップは投資信託などへの投資が中心となるため、景気の下降時にはあまり利益を期待できません。
また、利回りもヘッジファンドとファンドラップでは比較にならないほどの違いがあります。
もちろん、ファンドラップにも良い点がたくさんあります。
一番の長所は、低額からでも利用しやすいという点です。例えば初心者を対象にしたりそな銀行のファンドラップは、30万円から利用することが可能です。
本格的な資産運用という金額ではありませんが、まず投資とはどのようなものなのかを知るにはおすすめです。
一方、ヘッジファンドはもともと富裕層専用のサービスということもあり、最低でも億単位の資金が必要でした。
ヘッジファンドが一般の個人投資家にあまりなじみがなかったのは、この資金のハードルの高さが大きな理由です。
しかし、最近では一般の個人投資家にもヘッジファンド利用の門戸が開かれるようになってきています。
1千万円前後の資金から始められるものも多く、なかには数百万円単位でも出資が可能なヘッジファンドも登場しています。
また、日本国内のヘッジファンドが増えてきていることも注目すべき現象です。
かつては海外のファンドと直接やりとりをする必要がありましたが、日本語でのスムーズなコミュニケーションが可能になっており、はじめての人でも安心して利用することができます。
資産運用を検討しているのであれば、まずは国内のヘッジファンドに相談してみてはいかがでしょうか。