投資に興味を持っている人であれば、「アクティビストファンド」という言葉を一度は耳にしたことがあるかもしれません。

「物言う株主」とも表現され、村上ファンドなどが話題になった時期もありました。

近年、アクティビストファンドが再び脚光を浴びています。

アクティビストファンドは単に一定以上の株式を取得するだけでなく、企業価値の向上を目指してさまざまな提言を行うことが最大の特徴です。

 

一般の投資家が株主総会で質問や要求をするのは全く異なり、企業の財務状況や人事などについてかなり踏み込んだ要求を行います。

この記事では、アクティビストファンドは株式を取得した企業に対していったいどのような提言や要求を行うのかを5つのポイントに絞って解説をしていきます。

 

アクティビストファンドの要求事項のなかで、もっとも多いのが支配権や影響力を目的とした要求です。

企業を支配するために取締役会の議席獲得を要求することはもちろん、ターゲットとなる企業の買収が目的とされることも少なくありません。

ターゲット企業になりやすいのは「中型株以下の上場企業」です。

野村資本市場研究所の集計によれば、ターゲット企業のうち61%が小型株(時価総額10億ドル未満)、26%が中型株(時価総額10億ドル以上50億ドル以下)というデータになっています。

これは単純に運用資産額の問題によるもので、影響力を持てるような持分を保有できるのは中型株以下の企業が好都合だからということです。

 

しかし、最近では超巨大企業もターゲットになるケースが出てきています。

例えば、タイム・ワーナーやマクドナルドなどです。

アクティビストファンドの運用資産が膨れ上がってきていることに加え、複数のファンドが手を組んで共同戦線を張るような機会が増えてきたためです。

 

また、大企業の方が企業価値向上の可能性が高いこともわかってきました。

組織が巨大で複雑であるため、内部の精査をすると非効率的な要素が見つかりやすいのです。

ファンドと企業との間にある情報格差を生めるために、まず取締役を派遣するというケースが多くみられます。

1、ガバナンス関連の要求

 

近年は「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」の強化を求める動きが強くなっています。

企業には法令を遵守すると同時に、効率的に運営を行っていく責任があります。

それについて株主などのステークホルダーが統制し、モニタリングすることをコーポレート・ガバナンスと呼びます。

 

実態としては、株主が実質的な統治者であり経営者がその代理人である、という考え方が強化されることになっています。

米国は株主重視といわれていますが、実際に米国の企業の取締役会は、60%以上もの比率で社外取締役によって占められています。

日本でもこの考え方が導入されており、21世紀に入ってからは従業員重視から株主至上主義ともいえる方針に大きく舵を切っています。

そのため、日本ではアクティビストファンドに対して反発する意見も多くあります。

具体的な要求事項には、取締役会の改革はもちろん、成功経営責任者(CEO)などの解任要求も少なくありません。

ガバンナンス強化のためにポイズン・ピルなどの買収防衛策を撤回させることもあります。

また、幹部報酬の見直しを迫ることも珍しくありません。

 

既存の企業内部の人間にとって、非常に条件の悪い要求が目立ちますが、企業価値向上という視点からは長期的で正当な要求であることも注目すべきポイントです。

2、資本構成変更の要求

 

アクティビストファンドは資本構成変更の要求も積極的に行います。規模の大きな自社株買いのほか、やはり増配の要求が目立ちます。

また、「デット・ファインス(Debt finance)」の促進も注目すべきポイントです。

デット・ファインスは「借入金融」ともいわれる資金調達の方法で、銀行借入はもちろん、社債発行や私募債発行などを行います。

支払い利息というコストが発生するものの、レバレッジ効果があり事業を拡大するには都合の良い方法といえます。

 

また、利息については損金として処理できるため、企業の課税対象額が提言されるという会計上のメリットもあります。

一方、「エクイティファイナンス(Equity finance)」に対しては反対の立場が取られます。

エクイティファイナンスは新株発行を伴う資金調達の方法を指し、株主資本が増加することになります。

基本的に返済期限のない資金調達であるため、企業にとっては財務体質が強化されるというメリットがあります。

しかし、1株あたりの価値が希薄化するため、アクティビストファンドに限らず株主からは歓迎されません。

3、第三者への売却の要求

 

アクティビストファンドからの要求のなかで、もっとも大きい割合を占めるのが第三者への売却の要求です。

全体の要求のうち、23%以上を占めています。

また、要求の実現率も43%以上と非常に高い数字になっていることが目立ちます。

 

売却の対象は不動産などの「資産」が多くみられます。

不要な不動産などの処分はもちろんですが、簿価で評価されている不動産の売却も要求されます。

含み益を抱えている場合は、企業価値を顕在化させるという効果があるからです。

 

また、対象が「事業」であることも珍しくありません。

コア事業でないものは、売却を要求される可能性が高くなります。

さらに、「会社」の売却要求もしばしばみられます。これは、第三者への身売りということになります。

4、M&A関連の要求

 

「M&A(Mergers & Acquisitions)」に関連する要求は、ターゲット企業の状況によって異なります。

M&Aとは、複数の企業間で行われる合併や吸収、買収などを指す言葉です。

日本でもすっかりおなじみになり、事業の拡大や多角的経営を推し進める場面などでもみられます。

ターゲット企業がM&Aを仕掛けているような場合は、そのM&Aを中止するように要求することがあります。

M&A自体が妥当だと判断した場合でも、買収価格が高いと思われるような場合には異議を唱える可能性が高まります。

逆に、ターゲット企業がM&Aを仕掛けられている場合には、中止させたり、被買収価格をつり上げるように働きかけます。

 

こういった要求は、アクティビストファンドがリスク回避の意味合いで行うこともありますが、多くは「アービトラージ戦略」にもとづいた要求といえるでしょう。

アービトラージとは、「イベントドリブン型」投資戦略のひとつですが、一般的に「鞘取り」といわれる手法です。

企業のM&Aの際、被買収企業の株式をロング(買い)し、買収企業の株式をショート(売り)することで差額を利益として回収することが一般的です。

5、アクティビストファンドは企業価値の向上を目指す

 

このように、アクティビストファンドは企業に対してさまざまな要求事項を提示しますが、あくまで「企業価値の向上」を目指すことを目的としています。

一般的には「大量の株式を取得して企業の買収を行う」というイメージが強いのですが、あくまでファンドとして企業価値向上を行うためのひとつの手段にしか過ぎません。

 

また、コーポレート・ガバンナンスが注目されている現在、アクティビストファンドにはその中心的な担い手としての役割も期待されています。

投資を検討しているのであれば、アクティビストファンドの動きに注目することがおすすめです。

個人投資家では企業の詳細な情報を入手することが難しいのですが、アクティビストファンドの企業に対する働きかけなどの動きは公開されることが多くあります。

こういった情報をチェックしておけば、今後の市場の動きなどがわかりやすくなり、自分の投資に生かして利益をあげることも可能になります。

 

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