「ハゲタカファンド」と聞くと、恐らくほとんどの人が、あまり良くないイメージを持つのではないでしょうか。
一般的に「ハゲタカファンド」は、経営状態が危機に瀕しており、外部からの資本に頼らざるを得ない企業に対して、積極的に投資を行うファンドのことを指します。
企業の株価などが大きく下がっている状態で安く買いたたき、企業の価値が上がれば速やかに売却を行うという姿勢が、まるでハゲタカそのものだとして名づけられました。
しかし、ファンドと企業が上手く関係を築きながら経営再建を成功させた例もあり、一概にハゲタカファンドのすることだからとして忌み嫌うべきものではなくなってきつつもあります。
こちらでは具体的な事例をいくつか紹介しながら、ハゲタカファンドの意味や果たす役割について考察します。
最近よく聞くようになった言葉に「ヘッジファンド」があります。ハゲタカファンドとヘッジファンドには違いがあるのでしょうか。
ヘッジファンドは富裕層や機関投資家など、ごく限られた投資家から多額の資金を募って投資を行う私募ファンドです。
「私募」であるために、投資対象や手法を広く明らかにする必要がなく、また、法的な規制項目も少ないため、かなり自由に資金の運用を行うことができます。
規制のかからない代表例がデリバティブ取引や空売りです。
さまざまな投資手法が認められているため、一般的にヘッジファンドは「絶対収益」を目標とするハイリスク・ハイリターンの投資を行います。
一方でハゲタカファンドは、経営破綻に陥っている企業の株式などを、安い状態で大量に購入して経営の実権を握り、企業価値の回復を目指します。
時にはかなり強引な再建計画なども実行しながら、企業の価値が上昇したところで売却に転じ、利益を手に入れようとするファンドの総称がハゲタカファンドです。
投資手法が異なるものの、ハゲタカファンドはヘッジファンドの一種と言えます。
1、ハゲタカファンドとPEファンドとの違い
ファンドには、「PEファンド」というものもあります。これは「プライベート・エクイティーファンド」の略称です。
PEファンドというのは、投資家などから集めた資金を、非上場企業に対して出資します。それによって、企業の経営に深く関与しながら企業の価値を高めていき、最終的には他の投資家や企業に売却することで利益を得ようとするファンドのことです。
上場企業への投資のように安定性は保証されていないため、失敗する可能性も高いですが、成功すれば大きな利益を手にできる可能性がある投資手法です。
PEファンドの投資対象にはベンチャー企業なども勿論含まれますが、実際に多いのは既存企業に対しての投資で、出資比率を高めて経営に関与し、企業価値を高めたところで売却しようとします。この手法はバイアウト型と呼ばれます。
PEファンドとハゲタカファンドの投資手法はよく似ていますが、PEファンドが狙う企業は経営破綻に陥っている企業に限りません。
また、ハゲタカファンドが狙う企業は非上場に限らず、上場企業も含まれます。この2点に両者の違いがあります。
2、ハゲタカファンドと他のファンドの関係性
ハゲタカファンドとヘッジファンド、PEファンドの定義における関係性をまとめると、ヘッジファンドはハゲタカファンドとPEファンドも含めたファンドの総称です。
ハゲタカファンドとPEファンドとは重なり合う部分もありますが、完全には一致しない別のファンドとして、一応は定義づけられます。
しかし実際には、ハゲタカファンドを明確に他のファンドと区別することは容易ではなく、「ハゲタカ」かどうかの判断には、「やり方が汚い」「企業を食い物にする」など、主観的なイメージがどうしても入り込みがちです。
(1)事例1~サーベラス社による西武鉄道買収事例~
東京都心部から埼玉県南西部までを結んでいる重要な路線が西武鉄道です。
この西武鉄道は、創業者一族による株保有率の虚偽記載事件によって、2004年に株式の上場が廃止されていました。
そこで、2006年頃から株式の取得に乗り出したのがサーベラス・キャピタル・マネジメント社です。
当初は良好な関係を保っていたものの、2012年に再上場時の株式公開価格を巡って意見が対立することになります。
西武鉄道はサーベラス社を外して再上場の準備を行おうとし、サーベラス社は株式をさらに買い増してこれに対抗しようとしました。
途中でサーベラス社の経営再建案の1つに、西武ライオンズの売却や路線の1部廃止などが含まれていることが分かると、両者の関係はさらに悪化します。
最終的には、株主総会でサーベラス社が提案した新たな人事案が否決され、事態は収束に向かいました。
サーベラス社は西武鉄道の株式を売却して撤退し、西武鉄道は自社の経営再建計画に従って再上場を果たすことになります。
(2)事例2~村上ファンド事件~
記憶に残っている人も多いと思われるのが、この事例です。逮捕者も出たため、そこに大きな注目が集まりましたが、もともとはニッポン放送の経営権を巡ってのフジテレビとライブドア社の争いです。
事件が起こった2005年当初、ニッポン放送の運営はフジサンケイグループが行い、フジサンケイグループの運営はフジテレビが行っていました。ところが、フジテレビの親会社はニッポン放送で、非常にねじれた経営構造となっていました。
このねじれを改めるために乗り出したのが村上ファンドです。一時は筆頭株主となり、フジテレビと組んで経営への関与をさらに強めようとします。
しかし、ここへ待ったをかけたのがライブドア社でした。
ライブドア社は、フジテレビが株式の公開買い付けを行って保有比率を高める直前に、敵対的買収を仕掛けたのです。この段階で、村上ファンドはライブドア社側へつきます。
その後は紆余曲折を経たものの、ライブドア社がフジテレビに対して和解案を提示することで一応の決着をみます。
(3)事例3~スティール・パートナーズによるアデランスホールディングスの株式取得~
スティール・パートナーズはアメリカでよく知られたファンドですが、2008年までに日本のアデランスホールディングス(現アデランス)の株式を大量に取得していました。
一時は発行済み株式の27.7%を保有する筆頭株主となり、多くの取締役を送り込んで経営に関与しました。
しかし、スティール・パートナーズによるアデランスホールディングスの経営は上手く行かず、業績は低迷を続けることになります。
最終的にスティール・パートナーズは、保有株の大半を売却したとされています。
(4)事例4~ベイン・キャピタル社による「すかいらーく」買収~
2011年当初、すかいらーく社は巨額の負債を抱えていました。
そこで、ベイン・キャピタル社が野村プリンシパル・キャピタル社から、すかいらーく社の株式を取得します。
サービスやマーケティングの見直し・テコ入れを行うなど大幅に経営を改善して、わずか3年後の2014年に、再上場を果たします。
ベイン・キャピタル社がすかいらーく社の株式を取得した時の総額は約1600億円と推測されているのに対して、再上場時の時価総額は約2300億円でした。
これは大幅に利益を上げることに成功した事例です。
3、「ハゲタカファンド」の意味と役割
これまでに挙げたような事例は全体のごく一部であり、あくまで参考ですが、一般的に「ハゲタカファンド」と呼ばれてしまうようなファンドは、短期的に自社にとってだけの利益を生み出そうとする視点が強く、敵対的買収を仕掛けたり急進的な経営改善計画を提案するような手法をとるファンドであると言えます。
当初は友好的な関係を築いていたものの、ファンドが株保有比率を高めようとした途端に関係が崩れた例もあり、少なくとも日本において他の株主や企業との対立を生み出すような行為は、結果的に「ハゲタカファンド」と捉えられ、上手くいかなくなることが多いようです。
しかし一方で、企業再建に成功してファンドが大きな利益を手にした事例も勿論あり、ファンドからするとこのような投資は、失敗する可能性が高くてもリターンも大きい、非常に魅力的なものであることは間違いありません。
一般的に、ハゲタカファンドの敵対的で強硬な手法は嫌われがちですが、報道などによって多くの人の注目を集めます。
そのことは、それまで知らなかった企業経営の実態についての情報や、改善について考えさせるきっかけを、人々に与えているとも言えます。
そういった意味では、ハゲタカファンドとして嫌われるとしても、市場に多様性をもたせ経済界の風通しを良くする役割を、ハゲタカファンドが担っているとも考えられるのです。