若いうちから仕事を離れる「アーリーリタイア」が注目されています。働かずに自由な人生を送るのは魅力的ですが、簡単ではなく、失敗してしまう例もあるようです。
自由な人生を求めたはずなのに、失敗して不自由になったら嫌ですよね。
そこでこの記事では、アーリーリタイアに失敗してしまう原因を説明し、それをふまえ成功させるにはどうすればよいのかを分かりやすく解説します。
アーリーリタイアとは
アーリーリタイアとは「early(早い)」「retire(引退)」から成る造語で、その名の通り、比較的若いうちから仕事を辞め、貯蓄や資産のみで生活を成り立たせることをいいます。
「セミリタイア」との違い
アーリーリタイアと似たものに「セミリタイア」があります。アーリーリタイアは基本的に完全に仕事を辞めてしまうことを指しますが、セミリタイアは労働の強度を下げるものの働き続けることを指します。
アーリーリタイアに失敗してしまう3つの理由
アーリーリタイアは誰もが成功できるわけではなく、中には失敗してしまう方もいらっしゃいます。
アーリーリタイアに失敗してしまう代表的な理由を3つ確認しましょう。
資金不足
アーリーリタイアでは仕事を辞めてしまうので、当然ですが収入が途絶えます。貯蓄を取り崩しての生活が基本戦略になりますが、想定が甘く、貯蓄が足りなくなってしまうケースがあり得ます。
アーリーリタイアをする年齢から、アーリーリタイア後の期間を考え、十分な資金を用意しましょう。参考までに、厚生労働省の「簡易生命表」から、主な年齢の平均余命を下にまとめます。
基準年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
20歳 | 61.77年 | 67.77年 |
25歳 | 56.91年 | 62.84年 |
30歳 | 52.03年 | 57.91年 |
35歳 | 47.18年 | 53.00年 |
40歳 | 42.35年 | 48.11年 |
45歳 | 37.57年 | 43.26年 |
50歳 | 32.89年 | 38.49年 |
55歳 | 28.34年 | 33.79年 |
60歳 | 23.97年 | 29.17年 |
※平均寿命 男性:81.41歳 女性:87.45歳
参考:厚生労働省 主な年齢の平均余命(2019年 簡易生命表より)
想定外の事故、ケガおよび病気
想定外の事故やケガもアーリーリタイア失敗の原因の1つです。経済的に大きな負担を強いられ、アーリーリタイア後の生活維持に窮する可能性があります。
事前の想定は難しいですが、以下のようなケースには備えておきましょう。
- ケガや病気の治療費
- 相手をケガさせてしまった場合などの賠償費
- 住宅の修繕費
上記の費用をまかなえるだけの資金をあらかじめ用意しておくか、あるいは保険などで備えておくとよいでしょう。
孤独感
アーリーリタイア後、家族以外の人間関係が希薄になる可能性があります。孤独のために幸福感を得られず、「アーリーリタイアは失敗だった」と感じるケースがあるようです。
結婚し、配偶者や子がいる場合はあまり心配はいらないかもしれません。独身の方は、今は大丈夫と考えていても、人間関係を維持できるような対策を立てておくとよいかもしれません。
アーリーリタイアで気を付けたいポイント
上述した失敗の原因に気を付けるのはもちろんですが、アーリーリタイアではほかにも気を付けたいポイントがあります。
再就職は難しい
資金不足などの原因からアーリーリタイアを途中で諦める場合、再就職が難しいケースが考えられます。
アーリーリタイアをしていた期間は、採用を行う側から見れば就労していない、いわゆる「空白期間」です。再就職において不利な扱いを受ける可能性は否定できません。
アーリーリタイアは再就職が難しいという点に注意し、失敗しないよう綿密な計画を立ててから実行しましょう。
新規のローンは組めない
一概にはいえませんが、アーリーリタイアで安定的な収入を得ていない場合、ローンの審査に通らないケースが考えられます。
個人へのローンを規制する法律に「貸金業法」があります。同法では「総量規制」が定められており、年収の3分の1超の貸し出しが禁止されています。つまり、年収が0だとお金を借りられません。
銀行は貸金業法の対象外ですが、消費者向けの貸し出しは総量規制に準ずるよう業界で申し合わせが行われているため、年収の要件が問われます。貸金業法が規制しないローン商品もありますが、一般的に収入に対する審査は行われます。
アーリーリタイア後はローンを組めないという前提で資金計画を立てましょう。
家族の理解が大切
結婚し配偶者や子がいる場合、アーリーリタイアについて、家族の理解を得ておく方がよいでしょう。
アーリーリタイア後は家族との時間が長くなると考えられます。家族の理解を得ないままだと不仲の原因となり、せっかくの自由な時間を十分に楽しめないかもしれません。
家族もアーリーリタイアを行うパートナーと考え、一緒に協力できるような関係を作っておきましょう。
アーリーリタイアを成功させるポイント
ここからは、アーリーリタイアを成功させるポイントについて確認しましょう。
ポイント1:十分なお金を用意する
基本中の基本ですが、アーリーリタイアを成功させるためには十分な資金が必要です。
アーリーリタイアに必要なお金については後述します。
ポイント2:生活費を抑える
アーリーリタイア後は収入がなく、貯蓄を取り崩しての生活となります。貯蓄に見合わない華美な生活を行えば、それだけ失敗の可能性が高くなってしまいます。
用意した資金にもよりますが、アーリーリタイアを成功させるため、生活費はできるだけ抑えた方がよいでしょう。
移住するのもあり
生活費を抑えるには移住という選択肢もあります。
一般的に、都市部より地方の方が生活費を抑えられる傾向があります。参考に、総務省の「小売物価統計(2019年)」より、物価水準の上位と下位、それぞれ5都道府県について以下にまとめました。
上位 | 下位 | |
---|---|---|
1位 | 東京(104.7) | 宮崎(96.0) |
2位 | 神奈川(104.0) | 鹿児島(96.3) |
3位 | 埼玉(101.0) | 群馬(96.6) |
4位 | 千葉(100.7) | 福岡(96.8) |
5位 | 京都(100.6) | 岐阜(97.3) |
※消費者物価地域差指数(総合) 全国平均を100としたときの評価
単純に考えると、最も物価の高い「東京」から最も低い「宮崎」へ移住すれば、生活費を8.7%抑えられます。
ポイント3:趣味を見つける
アーリーリタイア失敗の原因の1つに「孤独感」がありました。孤独感への対策は簡単ではありませんが、趣味を見つけると解消できるかもしれません。
大樹生命(旧三井生命)によると、趣味にはリラックス効果があるほか、孤立を防ぎ、さらに健康寿命を延ばす効果まであるという研究結果があるようです。
もともと趣味をもっている方はよいですが、特に趣味がないという方は、今から趣味を見つけましょう。アーリーリタイア後に増える時間を有意義に過ごせるでしょう。
ときどき働いてみるのも1つ
趣味以外に、ときどき働いてみるのもおすすめです。人間関係を作れますし、適度な労働なら満足感も得られます。もちろん、生活費の足しになる点もポイントです。近年では「ギグワーク」と呼ばれる、ごく短い時間だけ働くサービスもあります。
アーリーリタイアといっても、絶対に働いていけない決まりはありません。有意義な時間を過ごす方法の1つとして、労働も選択肢に含めてみましょう。
アーリーリタイアに必要なお金はいくら?
「結局、アーリーリタイアにはいくら必要なのか」、誰もが気になると思います。アーリーリタイアに必要なお金を、平均的な支出と老後の年金から概算してみましょう。
支出の平均と老齢基礎年金
総務省の2020年家計調査によると、「総世帯」の平均消費支出は月に233,568円です。年金が出るまで、月に約23.4万円を取り崩すことになります。
年金は、原則65歳から支給されます。会社員として働いている期間が長ければ「老齢厚生年金」の上乗せ額が大きくなりますが、アーリーリタイアの場合は上乗せ額が少ないケースが考えられます。甘い想定とならないよう、基本的な年金「老齢基礎年金」だけで計算しましょう。
日本年金機構によると、2020年4月分の老齢基礎年金の額は月に65,141円です(満額の保険料を納めていた場合)。つまり、65歳からは年金の支給額がある分、23.4万円-6.5万円で、16.9万円まで赤字が減ります。
まとめると、65歳までの期間は月に23.4万円(年間280.8万円)、65歳からの期間は16.9万円(年間202.8万円)の赤字が発生します。これらをまかなえるだけのお金が必要だといえるでしょう。
参考
40歳男性で1億348万円
上述しましたが、日本人の平均寿命は男性で81.41歳、女性で87.45歳です。これを基にアーリーリタイアに必要なお金を、アーリーリタイア時の年齢別に以下にまとめました。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
20歳 | 1億5,964万円 | 1億7,189万円 |
30歳 | 1億3,156万円 | 1億4,381万円 |
40歳 | 1億348万円 | 1億1,573万円 |
50歳 | 7,540万円 | 8,765万円 |
いずれの年齢でも、アーリーリタイアには大きなお金が必要なようです。
ただし、これは最低限のラインです。アーリーリタイアに失敗しないためには、平均寿命以上に生きる可能性や想定外の出費まで考慮し、上記以上のお金の用意が望ましいでしょう。
アーリーリタイアに必要なお金を貯めるおすすめの方法
アーリーリタイアに必要なお金を貯めるおすすめの方法をご紹介します。
(1)積立定期預金:目標から逆算し確実に貯蓄
確実にお金を貯めたい方には「積立定期預金」をおすすめします。定期的に決まった金額を積み立てていく預金商品で、元本保証があります。
積立定期預金でアーリーリタイアのお金を貯める場合、目標額から逆算し、積み立てるお金を設定しましょう。たとえば20年で5,000万円貯める目標を立てた場合、1年で250万円、月に20.9万円積み立てれば目標に到達します。
目標までの計画が立てやすい点が積立定期預金のメリットです。
(2)割引債:銀行預金より利回りが高い
「割引債」は、満期まで利払いが一切ない代わりに、満期の額面より安い価格で購入できる債券を指します。
たとえば額面の90%で購入できる割引債を90万円分購入した場合、満期時点では100万円になります。
割引債が、発行者が破綻しない限り、満期時点で額面通りに償還される比較的安全性の高い商品です。ただし、ペイオフのような元本保証の仕組みはありません。その分、定期積立預金より金利が高い傾向があります。
(3)株式:長期計画ならあり
「株式」の場合、定期積立預金や割引債よりも大きなリターンが期待できますが、損失の可能性には注意が必要です。
アーリーリタイアまで、時間に余裕がある場合は選択肢になります。仮に損失が出ても、修正の期間が取れるためです。短期計画の場合は、損失の修正が困難なので避けましょう。また、資金の大部分を株式投資に回すのもおすすめしません。
(4)ヘッジファンド:「絶対収益」を追求する運用のプロ
「ヘッジファンド」は、さまざまな運用戦略を駆使し、私たちの資金を代わりに運用してくれる存在です。特に、「絶対収益」を追求する点に特徴があります。
絶対収益の追求とは、相場全体の影響を受けず、一定の収益の獲得を目指す戦略です。たとえば市場間の価格差を利用した「アービトラージ戦略」や、買いと売りを同時に仕掛ける「ロングショート戦略」があります。これらの戦略を用い、上昇相場はもちろん、下落相場でも収益を獲得しようとします。
ヘッジファンドは元本保証ではないため、株式と同じく損失の可能性があります。ただし、運用戦略にもよりますが、個別の株式に集中投資するよりはリスクが下がる傾向があります。
ヘッジファンドは最低投資額が大きいケースがあり、その場合、積立定期預金のように少しずつお金を入れるような使い方ができない場合があります。ヘッジファンドは、すでにまとまったお金を用意できている方におすすめの方法です。
ご興味のある方は下記の記事をご参考下さい。
アーリーリタイアできないときの対策
事前の計画段階で資金的にアーリーリタイアが難しいと判明した場合、どうすればいいでしょうか。諦めるのは簡単ですが、以下の方法を検討してみてはいかがでしょうか。
「セミリタイア」に切り替える
アーリーリタイアが難しい場合、「セミリタイア」を計画してみてはいかがでしょうか。上述しましたが、セミリタイアは完全なリタイアではなく、ある程度働き収入を得る方法です。
収入が得られるわけですから、リタイアに必要な金額は下がります。65歳まで月に23.4万円の赤字になるとお伝えしましたが、仮に月10万円の収入があるなら赤字は13.4万円(年160.8万円)まで縮小します。
アーリーリタイアほどではないにせよ、セミリタイアでも時間的な余裕が生まれます。資金がアーリーリタイアに必要なお金に届かない場合、セミリタイアを検討してみましょう。
投資を活用する
資金を投資で増やす方法です。
積立定期預金のように、元本保証の方法でお金を貯めた方が確実ですが、リターンはほとんど0%です。一方、元本保証はないものの、株式やヘッジファンドで資産運用すれば、資金不足を解消できる可能性はあります。
たとえば20年で5,000万円貯める場合、リターン0%なら1年で250万円(月20.8万円)の積み立てが必要ですが、年5%のリターンがあるなら151.2万円(月12.6万円)、年10%のリターンがあるなら年87.3万円(月7.3万円)の積み立てで達成できます。
投資には損失の可能性があるため、無条件でおすすめというわけではありません。「資金が足りないものの、アーリーリタイアを諦めたくない」という方は、選択肢の1つとして覚えておきましょう。
まとめ:アーリーリタイアは綿密な計画が不可欠
アーリーリタイアは再就職が難しく、失敗した際のデメリットが大きい点に注意が必要です。
最後に、ポイントを確認しましょう。
- よくある失敗理由の、資金不足・想定外の事故・孤独感への対策が必要
- 成功のために、十分に蓄え、消費を抑えながら、継続できる趣味を持つこと
- お金を貯める方法は4種類ある
- アーリーリタイアが難しい時はセミリタイアに切り替える選択肢もアリ
アーリーリタイアを成功させるには、まずは十分な資金が必要です。本記事で解説した必要な金額を参考にし、余裕をもって準備しましょう。
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