近年、投資の世界では「ヘッジファンド」という言葉がよく聞かれるようになりました。
広く一般の人から資金を募って投資を行う投資会社などとは異なり、ごく限られた富裕層から主に資金を集めて投資を行うというスタイルのため、ヘッジファンドの実態は普通の人にはなかなか見えません。
そのため、「株価を好き勝手に操っていそう」などのイメージをヘッジファンドに対して持つ人も多いようです。
実際のところ、ヘッジファンドはどのように投資を行っているのでしょうか。そして、株価を操るだけの影響力を有しているものなのでしょうか。
ここではヘッジファンドの概要や運用規模、投資手法などを紹介するとともに、ヘッジファンドが経済に与える影響について考察します。
1、ヘッジファンドの概要
ヘッジファンドは投資会社の一種です。
しかし、一般的な投資会社とは異なる点があります。
それは、主に富裕層の財産を守ることを目的とした投資会社であることです。
そのため、顧客1人から預かる資産は時によって億単位と、非常に巨額の場合も少なくありません。
また、その資金の募り方は私募です。
ごく限られた人や機関投資家だけが顧客として投資に参加できます。
この点、広く一般人から資金を募集する公募という形をとり、その募集金額も少額から参加できるようになっている一般的な投資会社とは、一線を画している存在です。
ヘッジファンドが通常の投資会社と異なる点がもう1点あります。
収益に対する考え方です。
通常、投資会社が目標としているのは相対収益です。
相対収益というのは、相場全体の指標となる数値から少しでも上の成績を目指す考え方です。
例えば、株価が全体として10%下がっている時には、5%の下げでとどめれば合格と考えます。
また、株価が全体で5%上昇している時は、10%の上昇を目指します。
対してヘッジファンドは、絶対収益を目標としていると言われます。
絶対収益というのは、例え株価が市場全体で値下がりしているような状況であっても、収益を出そうとすることです。
2、ヘッジファンドの運用規模の推移
1990年、ヘッジファンドの世界全体での運用規模は400億ドルにも満たない程度でした。
しかしその後、右肩上がりに規模は上昇し続け、リーマンショック直前の2007年には1兆9千億ドルに届きそうな勢いとなります。
2008年のリーマンショックによって、一時1兆4千億ドル程度まで運用規模は下落するものの、後は再び上昇を続けており、2012年には約2兆2千億ドルの運用規模となっています。
これは日本円にすると約220兆円です。
そして2018年現在、運用規模は日本円で約300兆円にまで拡大していると言われています。
投資の世界ではレバレッジという、実際の資金の何倍もの額を投資することができる仕組みがありますから、ヘッジファンドの場合に実際に動いているお金は、600兆円から900兆円もの金額になると想定されます。
なぜ、ヘッジファンドがこのように規模を拡大し続けてきたのでしょうか。
それはひとえに、運用成績が好調であるためです。
前項でも述べたように、ヘッジファンドは絶対収益が目標です。
その投資姿勢ゆえ、自分の資産を守りさらに拡大させようとする富裕層の多くが、資産をヘッジファンドへ預けています。
また、富裕層個人だけではなく、年金基金などの機関投資家も、資金の一部を成績優良なヘッジファンドへ投資することが近年増えています。
日本においても、投資信託の資金の一部をヘッジファンドへ投資する商品が出てきており、ヘッジファンドの運用規模は今後ますます拡大していくと言えそうです。
3、ヘッジファンドは相場に影響を与える存在なのか!?
ヘッジファンドの運用規模を他と比較した際、それはどの程度のものなのでしょうか。
日本の年金基金にGRIFというものがあります。
これは世界でも最大の規模を誇る基金ですが、そのGRIFの規模は約150兆円です。
これと比較すると、ヘッジファンド全体の約300兆円という運用規模は、確かに巨額です。
しかし一方で、世界の株式時価総額は約6千300兆円です。
ヘッジファンドがほとんどを占めているというような状況ではありません。
それにも関わらず、ヘッジファンドが相場を動かしていると言われることが多くあります。
このように言われる要因は、次項で述べるヘッジファンドの投資手法・投資スタイルにあります。
4、ヘッジファンドの投資手法・投資スタイル
一般的な投資会社のように資金の募集を公募で行う場合には、デリバティブや為替予約取引など、一部の取引に関して法律上の規制があります。
しかし、ヘッジファンドは私募で資金を集めるため、そのような法律上の規制がほとんどありません。
さらに、目標は絶対収益です。
そのため、さまざまな商品と投資手法を組み合わせて、ハイリスク・ハイリターンな投資を行うことが基本姿勢です。
デリバティブ取引も行いますし、空売りもします。
ヘッジファンドはただでさえ資金が豊富な上に、何倍ものレバレッジを効かせて取引しますから、絶対収益を目指して積極的に動いた結果、市場へ現れる影響は無視できないものとなります。
例えば、ヘッジファンドが何らかの理由で空売りを増やした場合、株式市場には下落圧力がかかります。
ここで、何かがきっかけとなり実際に値下がりが始まると、株価の大暴落へつながる可能性があります。
また、ヘッジファンドは利益を出すために短期の売買が中心ですから、株価が下がった時にはすぐに反応し、売却へと動くことになります。
5、ヘッジファンドの市場での役割とは
株価が値下がり傾向にある時にさらに売りが入れば、株価は暴落しかねないため、「株価下落時にさらに売却しようとするヘッジファンドは、市場に良くない影響を与えているのではないか」と思う人もいるかもしれません。
しかし、ヘッジファンドの投資をより詳細に見ると、そうとも言えないことが分かります。ヘッジファンドは、手法としては空売りなども時に行うのですが、考え方としては「割安なものを買い、割高なものを売る」という極めてシンプルで王道の投資が基本です。
割安・割高を見極めることにヘッジファンドの分析力が割かれていて、実際にはそれほど変わったことをしているわけではありません。
そして、「割安なものを買い、割高のものを売る」ということには、市場における株価を適正な水準まで是正する役割があります。
また、短期売買が中心のヘッジファンドですが、それが良くないこととは必ずしも言えません。
例えば、他の機関投資家などは長期での保有が前提です。
運用ポートフォリオ上にも「株式を何%組み入れること」などのルールが設けられています。そのため株価が下がっても、簡単には売却を行いません。
機関投資家のように長期保有を前提とする投資家が多くなると、市場はどうなるでしょうか。
安定はしているかもしれませんが取引数が減り、市場の流動性が非常に低くなります。売りたいと思った時に売れず、買いたいと思った時に買うことができません。
このように見ると、ヘッジファンドは市場が上手く機能するための流動性を与え、株価を適正な水準まで是正する役割を担っていると言えるのです。
6、ヘッジファンドはその規模や手法を活かして市場を調整することもできる
ヘッジファンドの運用規模は年々拡大しています。
レバレッジを効かせて絶対収益を目指すという投資手法も加わり、市場への影響力は一定程度あると言えるでしょう。
しかし、その影響が必ずしも悪いとは言えません。
短期売買が中心であるヘッジファンドは、市場に流動性を与える役割を担っている部分があります。
また、「割安なものを買い、割高なものを売る」という考え方に基づいた投資は、市場の株価を適正な水準に是正することもできるのです。