多くの富裕層が資産を預けるプライベートバンク。
主に海外で主流となっていますが、国内でも認知されるようになりました。しかし、名前を聞いたことがあっても、プライベートバンクがどのような存在なのか、どんな会社があるのか知らないという方も多いでしょう。
そんな方向けに、本記事でプライベートバンクの概要と代表的なプライベートバンクを紹介します。また国内事情と、海外との違いについても触れるので、一度に理解できる内容となっております。
プライベートバンクに興味のある方はぜひご一読ください。
プライベートバンクとは?
まずはプライベートバンクの基本的な概要を確認しましょう。
富裕層向けの資産管理サービス
プライベートバンクは主に富裕層の資産管理を行うサービスです。単にお金を預かるというわけではなく、資産運用や税金の対策などを行い、顧客の資産全体ができるだけ減らないよう、また大きくなるよう仕向けます。
一般的な金融機関でも似たようなサービスを行っていますが、プライベートバンクはより範囲の広いサービスを行います。金融商品や不動産などを含めた幅広い運用、またそれらにかかる税務・会計・法律などを含め、あらゆる手段を用い資産の保全を図ります。したがって、プライベートバンクには単に資産運用の知識だけでなく、会計や法律を含めた横断的・包括的な知識が求められます。
発祥はスイス 個人経営の銀行が由来
プライベートバンクはスイスで生まれました。もともと貴族や軍人などの資産管理人が発祥だといわれています。顧客の資産や経営に対して無限責任を負い、リスクの低い運用や経営を行ってきました。
現在では個人経営の銀行はほぼなく、各国の事情に合わせプライベートバンクの形態はさまざまです。しかし、プライベートバンクが行ってきた資産保全の手法や哲学は引き継がれ、現在でも多くの富裕層が資産の預け先に選んでいます。
代表的な日本のプライベートバンカー
プライベートバンクのほか、プライベートバンクが行うような資産管理サービス(プライベートバンキング業務)を行う者を「プライベートバンカー」といいます。日本の代表的なプライベートバンカーを確認します。
クレディ・スイス
クレディ・スイスはスイス・チューリッヒに本拠を置く、世界的な金融機関です。スイスの企業家・政治家のアルフレッド・エッシャー(1819─1882)によって設立されました。創業は1856年で、160年以上の長い歴史を誇ります。日本とも浅からぬ関係があり、日本が戦後初めて海外で国債を発行した際、単独で幹事を引き受けたのがクレディ・スイスでした(1959年)。
世界50カ国以上でプライベートバンキング業務を行い、日本にも1972年から東京に拠点があります。資産運用はもちろん、税務および年金のプランニング、生命保険の活用など、さまざまな助言を行います。
参考:クレディスイス公式
UBS
UBSもスイスに本拠を置く国際的なプライベートバンカーです。1862年創業のスイス・ユニオン銀行および1872年創業のバスラ―銀行を前身に、160年以上の歴史を持ちます。日本では1965年から拠点を持ち、現在では5つの日本法人が東京、名古屋、大阪で活動しています。
UBSは投資を通じた資産運用や保全、事業の承継に強みを持ちます。受賞歴も厚く、資産のリサーチ業務やプライベートバンキング業務において数多く表彰されています。
参考:UBS公式
野村證券
野村證券は国内最大手の証券会社です。プライベートバンキング業務は主にウェルスマネジメント部門およびウェルスパートナー部門が担当しています。
プライベートバンキング業務では野村グループ傘下の信託銀行やアセットマネジメント、また提携先の野村不動産グループや各会計事務所、法律事務所と協力します。一般的なリテール部門と異なり、商品の提案にとどまらない横断的な助言を行います。
参考;野村證券公式
三菱UFJモルガンスタンレー証券
三菱UFJモルガンスタンレー証券は、米メリルリンチのプライベートバンク部門を引き継いだ三菱UFJモルガンスタンレーPB証券を2020年8月に吸収合併しています。
翌年4月には富裕層向けに「ウェルス&ミドルマーケット本部プライベートバンキンググループ」を発足させ、本格的なプライベートバンカーとしてスタートしています。
参考:ブルームバーグ
みずほ銀行
みずほ銀行は「ウェルスマネジメント部」および2005年に設立したみずほプライベートウェルスマネジメントにおいてプライベートバンキング業務を手掛けています。また傘下のみずほ証券はロンバー・オディエ(スイス)と提携し、シンガポールでプライベートバンキング業務を展開しています。
日本のプライベートバンク事情
日本のプライベートバンク事情はどのようになっているのでしょうか。
主に国内、海外の大手金融機関が提供
上述の通り、日本のプライベートバンクの多くは大手金融機関です。伝統的に金融機関が行ってきた背景もありますが、日本では金融商品の募集に金商法上の登録が必要という事情もあります。
また、銀行業法や保険業法のように、金融の分野ごとに法令で縦割りとなっています。横断的なサービスを行うにはそれぞれの分野が定める法令にのっとって運営しないといけません。したがって、それぞれの分野をグループ傘下に持つ、大手の金融機関が主にプライベートバンクの担い手となっています。
税理士や会計士、弁護士が行うケースも
プライベートバンクのサービスには金融商品にとどまりません。税務や法律に基づき資産の保全を行うアプローチもあります。こちらにも法令の壁があり、税理士法や弁護士法のため、これらの提案は税理士や弁護士にしか許されていません。したがって、税理士や会計士、また弁護士がプライベートバンキング業務を提供するケースもあります。
海外(オフショア)と国内プライベートバンクの違い
プライベートバンクの本場はスイスなどの海外になりますが、海外と国内とでどのような違いがあるのでしょうか。
プライベートバンクを一概にまとめることは難しいですが、「国内を拠点にするケース」と「海外を拠点にするケース」で分けると整理できるかもしれません。海外拠点のサービスを特にオフショアといいます。
そこで国内と海外(オフショア)の大まかな特徴について違いを解説します。
国内の特徴:日本の法令・税務に明るい
国内のプライベートバンクは、日本の法令や税務に詳しい傾向があります。日本の法令や税務は複雑で、所得税などの個人の税金はもちろん、顧客が法人オーナーの場合、法人会計についても知っておかなければなりません。
仮に外資系企業であっても国内の諸法令に違反することはできません。
そのため。たとえばクレディ・スイスの場合、現地の「クレディ・スイス」と日本の「クレディ・スイス証券」では提供できるサービスは異なります
国内に拠点を持たないオフショアプライベートバンクにとっては高い障壁です。国内プライベートバンク独自の強みといえるでしょう。
オフショアの特徴:資産運用に強み
オフショアプライベートバンクは拠点を海外に置いており、日本より税率や資産運用の規制が緩い地域もあります。そのため、国内プライベートバンクにはできない資産運用が可能なケースがあります。
現地から国内で利益を受け取る際の税金には注意したいですが、運用中に課税されないだけでも運用上のメリットがあります。オフショアプライベートバンクの強みといえるでしょう。
プライベートバンク提供の3サービス
プライベートバンクがどのようなサービスを提供しているか、具体的に見てみましょう。
資産運用:一般に流通しない商品も含め提案
プライベートバンクは顧客の資産を預かりますが、現金よりも効率的な手段で運用するのが一般的です。主に以下のような方法で資産運用を行います。
私募債
債券は発行体が元本と利息の支払いを約束した商品で安全性の高い資産です。国債のように、一般的に流通する債券を「公募債」といいます。対して一部の投資家にしか流通しない債券を「私募債」といいます。
公募債で良い条件のものがあればいいですが、選択肢は限られます。プライベートバンクは私募債まで選択肢に含めることができます。
債券の募集を行うためには金商法上の届け出が必要なため、主に金融機関系のプライベートバンクで提供されます。
不動産
家賃収入や不動産の売却益で運用する方法です。金融商品の代替または分散として活用されます。
不動産は単なる資産運用だけでなく、節税策の一環として使われることもあります。
リース、証券化商品
不動産のほか、航空機や船舶などの収益事業を1つの金融商品として組成(証券化)し、顧客所有の法人名義で投資する方法です。投資から得られるリターンもありますが、節税による資産保全効果が高い方法です。
投資一任運用(SMA、ラップ)
投資一任勘定契約を結び、プライベートバンクに株式や債券などの運用を一任する方法です。「SMA(Separately Managed Account)」や「ラップ口座」と呼ばれるケースもあります。
大手金融機関プライベートバンクが得意とする方法で、金融のエキスパートが世界中の金融市場で資産運用を行います。
ヘッジファンド
ヘッジファンドは資産運用に特化した金融商品または企業そのものを指します。いずれのケースでも顧客から資金を預かり、独自の運用戦略で安定的な収益の確保を目指します。
ヘッジファンドの多くは、私募債同様、一般には流通していません。金商法上「私募」扱いとなるためです。また金商法の登録がない(たとえば海外籍)ヘッジファンドもありますが、やはり一般的には流通していません。
ヘッジファンドへ資金を預けるには、基本的にこちらからコンタクトを取る必要があります。しかし、中にはプライベートバンクが仲介している、または投資一任運用の一環にヘッジファンドを取り入れているケースがあります。
税務対策
顧客または顧客所有の法人にかかる税金を小さくするサービスです。税理士や会計士、また弁護士が得意とする方法です。上述した不動産やリースなどの手法も併用する場合、金融機関との連携も欠かせません。
相続、事業承継
富裕層にとって最高税率55%の日本の相続税は懸案事項です。資産規模にもよりますが、なんら対策を行わないと資産の半分以上の税金が発生する可能性があります。特に顧客が法人オーナーの場合、自社株の承継問題にも関わってきます。
相続税の対策の1つに税務上のアプローチがあります。不動産やローンなどを活用し、相続税計算上の評価額を小さくする方法です。
これらの対策には、日本の法令や判例について専門的な知識が必要です。国内プライベートバンクが得意とする分野といえるでしょう。
プライベートバンクはいくらから利用できる?
プライベートバンクを利用するには最低どれくらいの資産が必要なのでしょうか。
数千万円~1億円以上が目安
多くのプライベートバンクは利用に必要な資産額を公開していません。ただし、クレディ・スイスとUBSはHPで公開しており、それぞれ5億円、2億円を預け入れられる顧客を対象としているようです。
- クレディ・スイス:5億円以上
- UBS:2億円以上
プライベートバンクは富裕層の資産管理に特化したサービスです。すべてのプライベートバンクが数億円の預け入れを求めるわけではありませんが、やはり顧客にもある程度大きな資産が求められるでしょう。
一概にはいえませんが、最低でも数千万円以上の資産規模を持っていないとプライベートバンクの利用はできないようです。
富裕層、事業家はプライベートバンクに向いている
プライベートバンクは資産運用や税務などの手法を用い、資産の保全を得意とするサービスです。これから資産を増やす方より、すでに保有する大きな資産を維持したい方に向いているでしょう。
特に法人を所有している方の場合、事業承継が課題です。自社株も相続税の評価対象となるため、莫大(ばくだい)な相続税を現金で納めなければならない可能性があります。
多くのプライベートバンク(特に国内プライベートバンク)にとって、事業承継は得意とする分野です。富裕層のうち事業家は特にプライベートバンクに向いているといえるでしょう。
まとめ
本記事のポイントは以下の通りです。
- プライベートバンクは富裕層向けの資産管理サービス
- 資産運用のほか、税務や法律など、あらゆる手段で資産を保全
- 主に大手金融機関が提供 会計事務所などの例も
- 国内は日本の法律に詳しく、オフショアは資産運用に強み
- 利用は数千万円以上から
プライベートバンクはスイスで生まれ、主に富裕層の資産をさまざまな手法で保全するサービスです。国内では大手金融機関や士業が提供しています。
プライベートバンクを利用できる金額の目安は数千万円~1億円以上です。誰もが利用できるわけではありませんが、資産規模が合致し、資産管理を専門家に依頼したい方は選択肢の1つに入れてみてはいかがでしょうか。