“脱・中国依存”は本当に進む?レアアース供給リスクと日本株の攻め方

レアアース関連株で最も重要なのは、鉱石の採掘ではなく供給網のボトルネックが分離・精製(中流工程)にある点です。

本記事では、供給網の構造や日本の政策的な動き(南鳥島の計画を含む)、工程別の企業分類と比較軸を整理し、再現性を高めるための分散投資とリスク管理の3ルールを具体的に示します。

個別銘柄の購入を推奨する投資助言ではなく、判断フレームと運用ルールについて解説します。

レアアース投資の鍵、供給網のボトルネックと地政学リスク

レアアース関連株への投資を考える上で、重要な視点は「分離・精製」という加工工程が供給網全体のボトルネックになっているという事実を理解することです。

なぜなら、鉱石を掘り出すこと以上に元素ごとに分離・精製する工程の難易度が高く、その大半を中国に依存するサプライチェーンのいびつな構造が、地政学リスクを高めているからです。

その一方で、レアアースは電気自動車や風力発電といった次世代産業に不可欠であり、この需給のアンバランスが投資機会とリスクの両面を生み出しています。

この供給網の構造的な弱点を理解することが、リスクを管理し、長期的な視点で投資機会を見出すための第一歩となります。

採掘よりも難しい「分離・精製」という工程

レアアースにおける「分離・精製」とは、採掘した鉱石の中から、性質がよく似た17種類の元素を一つひとつ化学的に取り出し、高純度に磨き上げる工程を指します。

この工程は、数百から数千もの槽(そう)を使って溶媒を繰り返し循環させる複雑なプロセスを必要とし、高度な技術ノウハウと大規模な設備投資が求められます。

実際に、鉱石そのものは世界各地で産出されますが、商業ベースでこの分離・精製を行える国はごく少数に限られているのが現状です。

つまり、レアアースの価値と供給リスクは、鉱石の埋蔵量以上に、この分離・精製能力に大きく左右されるのです。

中国に依存するサプライチェーンの構造

現在のレアアース供給網における最大のリスクは、サプライチェーンが特定の国、すなわち中国に極度に依存している点にあります。

世界のレアアース生産量に占める中国のシェアは、鉱石採掘の段階で約7割、そしてボトルネックである分離・精製工程においては約9割に達すると言われています。

この圧倒的なシェアは、中国が輸出規制で世界のハイテク産業が直接的な影響を受けることを意味します。

この一国集中型の構造こそが、レアアースを単なる工業材料から、国際的な駆け引きに使われる「戦略物資」へと変えてしまった根源的な理由です。

電気自動車や風力発電を支えるその重要性

供給面に大きな課題を抱える一方で、レアアースの需要は今後ますます高まっていく見通しです。

その最大の牽引役が、脱炭素社会の実現に不可欠な電気自動車(EV)や風力発電です。

例えば、高性能なEVの駆動モーターには、強力な磁力が長期間持続する「ネオジム磁石」が欠かせません。

この磁石の主原料となるのが、レアアースの一種であるネオジムやジスプロシウムです。

洋上風力発電の大型発電機も同様で、1基あたり数百kgから1トン以上ものレアアース系永久磁石が使われることもあります。

このように、未来の産業を支える基幹部品にレアアースは深く関わっており、この旺盛な需要と供給リスクのギャップこそが、レアアース関連株を魅力的な投資テーマにしているのです。

日本のレアアース戦略とサプライチェーン4工程別の関連企業

レアアース関連株を考える上で最も重要なのは、サプライチェーン全体の構造をどの企業がどの部分で担っているのかを理解することです。

日本の供給網安定化戦略は、資源を確保する上流から、技術的なボトルネックである中流、最終製品を製造する下流、そして開発を支える周辺インフラまで、多岐にわたる企業の連携で成り立っています。

各工程の役割とリスクを正しく把握することが、バランスの取れた分散投資の第一歩となります。

国策としての供給網安定化と南鳥島周辺の開発計画

日本の経済安全保障において、レアアースの安定供給は極めて重要な課題です。

そのため、国は供給源の多様化、国内での分離・精製能力の確保、リサイクルの推進という3つの戦略を柱として供給網の安定化を進めています。

特に注目されるのが、小笠原諸島・南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)で発見されたレアアース泥の開発計画です。

このプロジェクトでは、2027年頃に試験的な回収を開始することが計画されており、日本の資源自給率を大きく向上させる可能性を秘めています。

南鳥島のプロジェクトは技術的・コスト的な課題も残りますが、成功すれば日本のサプライチェーン構造を根本から変える力を持っています。

【上流】資源アクセスを担う国家プロジェクトの動向

サプライチェーンの出発点である上流工程は、レアアース資源そのものを確保する役割を担います。

南鳥島周辺のレアアース開発は、まさにこの上流工程を国が主導で強化しようとする動きです。

水深約6,000メートルという過酷な環境の海底からレアアースを豊富に含む泥を汲み上げる技術開発が、海洋研究開発機構(JAMSTEC)などを中心に進められています。

現時点では特定の民間企業がプロジェクトの事業主体となっているわけではありません。

そのため投資家としては、政府の発表や技術開発の達成状況といった政策の進捗自体を、重要な判断材料として追っていく必要があります。

【中流】ボトルネック解消の鍵を握る双日など商社の役割

レアアース供給網において最も重要かつ脆弱な部分が、鉱石から個別の元素を取り出す「分離・精製」を担う中流工程です。

この供給のボトルネックを解消する上で鍵となるのが、海外との太いパイプを持つ総合商社の存在です。

象徴的な事例として、双日はオーストラリアの資源大手Lynas Rare Earthsと連携し、日本国内に分離・精製工場を建設する計画を検討しています。

商社が海外の資源権益と国内の加工技術を結びつけることで、中国に依存しないサプライチェーンの構築が進むと期待されます。

投資判断においては、こうした具体的な事業化に向けた進捗が重要な評価指標となります。

【下流】需要増の恩恵を受ける磁石・モーター関連企業

分離・精製されたレアアースは、強力な性能を持つ永久磁石に加工され、サプライチェーンの下流工程へと供給されます。

この永久磁石は、電気自動車(EV)の駆動モーターや風力発電機、データセンターのハードディスクドライブ(HDD)など、現代社会に不可欠な製品の中核部品です。

例えば、高性能なネオジム磁石の世界的なメーカーである信越化学工業やTDKは、脱炭素化という大きな潮流による需要拡大の恩恵を直接受ける立場にあります。

下流企業は市場拡大の恩恵を受けやすい一方で、中流工程からの原料調達コストが収益を直接圧迫するリスクも抱えています。

そのため、調達先の多様化や製品への価格転嫁の動向が、業績を左右する重要なポイントです。

【周辺インフラ】海洋開発を支える三井海洋開発や三菱重工

サプライチェーンを直接構成するわけではありませんが、今後の国内資源開発を物理的に支えるのが、海洋開発や輸送を担う周辺インフラ関連企業です。

南鳥島周辺でのレアアース開発が本格化した場合、水深6,000メートルからの揚泥作業には、三井海洋開発が持つ浮体式海洋生産設備の技術や、三菱重工、川崎重工業が手がける特殊な作業船が不可欠になると考えられます。

これらの企業がレアアース事業に直接関与しているという公式な発表は、現時点では限定的です。

関連銘柄としては「テーマ連想枠」と捉え、実際のプロジェクト受注などの具体的なニュースを確認しながら、慎重に投資判断を行うことが賢明です。

再現性を高めるレアアース株の分散設計と3つのリスク管理ルール

レアアース関連株への投資で失敗しないためには、個別銘柄の将来性を予測する「当て物」にするのではなく、再現性のあるルールを設計し、淡々と実行していく姿勢が最も重要です。

どんなに魅力的なテーマでも、感情的な売買を繰り返せば資産を減らしかねません。

ここでは、そのための具体的な「資産全体から考える上限比率設定」「工程別に追いかける点検項目」「下落理由で判断するための行動計画」という3つのリスク管理ルールを解説します。

この設計図を持つことで、市場の動きに一喜一憂することなく、長期的な視点でレアアースというテーマの成長を取り込めるようになります。

ルール1、資産全体から考えるテーマ投資の上限比率設定

まず最初に行うべきは、自分の株式資産全体の中で、レアアース関連テーマにどれだけの資金を割り当てるかという上限比率を決めることです。

これは、万が一投資シナリオが崩れた場合に被る損失を、あらかじめ許容できる範囲内に収めるための最も重要な防衛ラインとなります。

例えば、株式資産が1,000万円ある方なら、上限を10%と決めれば、投資額は100万円までとなり、心の平穏を保ちやすくなります。

この比率はあくまで目安です。

最終的にはご自身が「この金額までなら失っても生活や精神面に影響が出ない」と思える範囲から逆算して、自分だけのルールを設定することが大切です。

ルール2、工程別に追いかける四半期ごとの点検項目

次に、投資した後も定期的に状況を確認する仕組みを作ります。

ここで重要なのは、個別企業の株価や決算だけを見るのではなく、レアアース供給網の各工程が健全に機能しているかというマクロな視点を持つことです。

例えば、中流工程である双日とLynas Rare Earths社の国内分離・精製プロジェクトが計画通り進んでいるか、といったニュースは重要な判断材料となります。

四半期に一度など、タイミングを決めて点検しましょう。

これらの項目を定期的にチェックすることで、投資を継続すべきか、あるいは戦略を見直すべきかの判断精度が高まります。

ルール3、下落理由で判断するための冷静な行動計画

最後に、投資している銘柄の株価が下落した際の行動をあらかじめ決めておきます。

重要なのは、なぜ株価が下がったのか、その理由を冷静に分析することです。

すべての下落が危険信号とは限りません。

例えば、下落理由がレアアースの需給が一時的に緩んだことによる材料価格の下落なのか、あるいは中国が輸出規制を強化したといった地政学リスクの高まりなのかで、取るべき行動は全く異なります。

このように事前にシナリオを準備しておくことで、パニック売りなどの感情的な行動を抑え、一貫した投資判断を下すことが可能になります。

まとめ

本記事はレアアースの供給網構造と日本企業の工程別の役割、再現性のある分散投資ルールを整理した解説で、最も重要な点は分離・精製(中流工程)が供給網のボトルネックであることです。

まずは、資産全体に占めるレアアース関連の上限比率を決め、四半期ごとに工程別KPIを点検して下落理由ごとの行動計画を作ることをおすすめします。

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