老後資金をいくら用意すればいいか、疑問に思う方は多いでしょう。
「人によって違う」のはもちろんですが、やはりある程度目安を知っておきたいと思うのは当然だと思います。
本記事では老後資金の目標を5,000万円に設定することをおすすめします。公的な調査から、ゆとりのある老後には5,000万円程度が必要だと計算できるためです。これは年金を除いた金額です。
記事の前半では、どうして老後に5,000万円が必要なのか、その根拠を解説します。後半では、5,000万円を貯めるおすすめの方法も解説するので、併せてご確認ください。
なぜ老後資金に5,000万円が必要なのか
どうして老後資金に5,000万円が必要なのか、その根拠を確認しましょう。
5,000万円の根拠
5,000万円の根拠を簡単にまとめると以下のようになります。
- ゆとりある老後生活費(夫婦):月約36.1万円
- 老後の年金の平均(標準的な夫婦):月約22万円
- 月の収支:14.1万円の赤字
- 老後を30年と仮定した場合の赤字額:5,076万円
引用元:
生命保険文化センターの調査によると、ゆとりある老後生活には夫婦2人で月に平均36.1万円かかるようです。これは18~69歳の男女4,014名に行ったアンケート調査の平均で、ゆとりある生活とは旅行やレジャーなどの費用を最低日常生活費に上乗せした金額です。
日本年金機構によると、標準的な夫婦2人の年金額は月に22万496円です。ゆとりある老後生活費から差し引くと、月に約14.1万円の赤字となることが分かります。老後を30年と仮定した場合、14.1万円×30年(360カ月)=5,076万円もの赤字になる計算です。
したがって、老後生活には5,000万円が必要だといえます。
独身は支出が減るも年金も減る
上記は夫婦2人分の計算なので、独身の方はもっと少ない支出になる可能性はあります。しかし、独身の場合は年金収入も減る点には注意しないといけません。
上記の標準的な夫婦2人の年金内訳は以下の通りです。
- 夫婦2人の基礎年金(満額:6万5,075円×2人分=13万150円)
- 夫の厚生年金(9万346円)
1人あたり基礎年金は月に6万5,075円なので、30年では2,342.7万円にもなります。つまり独身の方は、夫婦世帯と比較し年金が2,300万円以上も少なくなるのです。
独身の方は支出が減ると考えがちですが、年金も少ないという点を慎重に考える必要があります。やはり十分な老後資金を用意しておいた方がいいでしょう。
参考:生命保険文化センター 令和元年度 生活保障に関する調査
5,000万円までの貯蓄シミュレーション
5,000万円を貯めるには月にどれくらい貯蓄を行えばいいのでしょうか。簡単に計算してみましょう。
30歳から月11.9万円の貯蓄で達成
年金を受け取れるのは原則65歳からです。ここから貯蓄期間を逆算し、月に必要な貯蓄額を計算します。以下にまとめてみましょう。
年齢 | 65歳までの月数 | 5,000万円到達に必要な月の貯蓄額 |
---|---|---|
20歳 | 540カ月 | 9.3万円 |
30歳 | 420カ月 | 11.9万円 |
40歳 | 300カ月 | 16.7万円 |
50歳 | 180カ月 | 27.8万円 |
上記の通り、30歳の方は65歳になるまでに420カ月あります。5,000万円÷420カ月=11.9万円です。つまり、30歳の方は月に12万円の貯蓄を65歳まで続けると5,000万円を貯められると計算できます。
当然ですが、年齢が上がるほど5,000万円到達は難しくなります。老後の備えはできるだけ早く取り組むようにしましょう。
退職金も考慮しましょう
退職金制度がある会社にお勤めの場合、5,000万円すべてを貯める必要はありません。「5,000万円-退職金」が貯めるべき金額です。参考に、退職金の平均を以下にご紹介します。
形態 | 定年時の平均退職金 (2018年調査) |
---|---|
大学卒 (管理・事務・技術職) | 1,983万円 |
高校卒 (管理・事務・技術職) | 1,618万円 |
高校卒 (現業職) | 1,159万円 |
大卒の方は定年時に約2,000万円の退職金を受け取れているようです。つまり、あと3,000万円貯めれば5,000万円に到達できます。30歳なら月に約7.1万円、40歳なら月に10万円の貯蓄で5,000万円に到達できます。
投資すると5,000万円を達成しやすくなる
前章の計算はすべて利回り0で計算しています。当たり前ですが、ある程度利回りがあると5,000万円に到達しやすくなります。本節で詳しく確認してみましょう。
利回り3%なら月6.9万円の積立投資で達成
30歳の方が65歳までに5,000万円を貯める場合、仮に利回りが3%あると月に6.9万円の積み立てで達成できます。以下にシミュレーションをまとめました。
年齢 | 累計の積立額 | 残高 |
---|---|---|
35歳 | 414万円 | 440万円 |
40歳 | 828万円 | 949万円 |
45歳 | 1,242万円 | 1,540万円 |
50歳 | 1,656万円 | 2,225万円 |
55歳 | 2,070万円 | 3,019万円 |
60歳 | 2,484万円 | 3,939万円 |
65歳 | 2,898万円 | 5,006万円 |
65歳までの積立額は2,900万円足らずですが、残高は5,000万円を超えています。これは3%の利回りで運用し、2,000万円以上増やすことができたためです。
利回り3%は銀行預金では実現できないでしょう。低金利の状況が続いているためです。ある程度利回りを求める場合、投資が不可欠といえます。上記シミュレーションのように、少しずつ投資していく方法を積立投資といいます。
【利回り別】5,000万円達成に必要な月の積立投資額
利回りが大きくなるほど月に必要な積立額は小さくなります。30歳の方を例にとり、65歳までに5,000万円到達するために必要な月の積立額を、利回り別に以下にまとめました。
利回り | 月に必要な積立投資額 |
---|---|
0% | 11.9万円 |
3% | 6.9万円 |
5% | 4.7万円 |
7% | 3.1万円 |
10% | 1.6万円 |
一括投資の併用でより達成しやすくなる
余裕資金がある場合、積立投資と併せて一括投資も同時に行うとより達成しやすくなります。
例えば余裕資金が500万円ある場合、利回り3%で35年運用すると約1,407万円になります。残り3,600万円を貯めれば5,000万円に到達できる計算です。
余裕資金がある場合、一括投資を併用するといいでしょう。
老後資産づくりに投資をおすすめできる方
上述の通り、ある程度利回りがあると5,000万円に到達しやすくなり、その利回りのためには投資が不可欠です。
ただし、すべての方に投資をおすすめできるわけではありません。特に老後資金を貯める目的で始める場合、慎重に判断しないといけません。投資にはリスクがあり、必ず増やせるわけではないためです。
一般に、以下のような方は老後資産づくりに投資をおすすめできます。
- リスクを取れる方
- 年齢が若く、運用期間を長く取れる方
- 家計に余裕がある方
それぞれ解説します。
リスクを取れる方
投資には必ずリスクがあります。リスクを取れる方だけが投資を行うようにしましょう。
「どうしても元本保証でないといけない」という方は投資をせず、別の方法で老後資金を準備しましょう。
年齢が若く、運用期間を長く取れる方
年齢が若くリタイアまで比較的長い期間がある方の場合、投資をおすすめします。目標到達に必要な利回りが小さくなり、小さいリスクで十分目標に到達できるためです。
月に5万円の積立投資を行う場合を考えてみましょう。運用期間を35年間取れる場合、約4.6%の利回りで5,000万円に到達できます。
一方運用期間が15年しかない場合、5,000万円到達に必要な利回りは約21.8%にもなります。不可能ではないでしょうが、相当のリスクが伴うでしょう。
年齢が高い方はリタイア時期を後にずらすなどし、運用期間を長くする工夫が望ましいです。また同時に、若い方はできるだけ早く投資を始めた方がいいともいえるでしょう。
家計に余裕がある方
投資は家計に余裕がある方が行うようにしましょう。投資は余裕資金で行うことが大切だからです。家計に余裕がない場合、運用資金を途中で引き出す可能性が高くなってしまいます。結果的に短期投資にとどまってしまい、長期投資の恩恵を受けられません。
家計収支に余裕がない方は、まず家計収支の見直しを行いましょう。
老後資産づくりにおすすめの投資方法
ここからは5,000万円を貯めるおすすめの具体的方法をご紹介します。
月々の積み立てにおすすめ
まずは月々の積み立てにおすすめの方法をご紹介します。簡単に以下にまとめました。
低リスク重視の方 | 積立定期預金 保険 |
---|---|
利回り重視の方 | つみたてNISA 確定拠出年金 |
それぞれ解説します。
積立定期預金
積立定期預金は定期預金に毎月一定額積み立てていく方法です。利回りはほぼありませんが、元本保証なので減ることもありません。
より確実に貯めていきたい方におすすめです。
保険
保険に積み立てていく方法です。将来に満期金や解約返戻金などを受け取れる保険に加入することで、銀行預金のように貯蓄を行うことができます。個人年金保険や養老保険が代表的です。
保険の満期金や解約返戻金などは契約時に約束されるので、基本的にリスクはありません。ただし、あまりに早期に解約すると解約返戻金の額が支払い保険料を下回る、つまり元本割れの可能性があります。契約内容はきちんと確認しましょう。
つみたてNISA
投資信託に少しずつ投資していく方法です。投資信託とは株式などで運用される金融商品で、運用成績に従って価格が毎日変動します。値上がりすれば利益になり、反対に値下がりすれば損失になります。
つみたてNISAを通じた投資は利益が非課税になります(通常は利益の約2割が課税)。ただし、年間では40万円までしか投資できません。
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確定拠出年金(iDeCoまたは企業型)
確定拠出年金は投資信託または定期預金などの元本確保型商品に積み立てていく方法です。つみたてNISAと同じく、利益が非課税になるメリットがあります。
確定拠出年金の場合、積立額の全額が所得控除になります。老後資金の準備と同時に節税ができる制度ですが、原則60歳まで出金できない注意点があります。
確定拠出年金は企業型と個人型(愛称:iDeCo(イデコ))があります。制度内容はほぼ同じですが、企業型は会社が手数料を負担しているメリットがあります。
勤め先が企業型確定拠出年金を導入している場合は企業型を、そうでない場合は個人型を選ぶようにしましょう。
一括投資におすすめ
余裕資金がある場合は、以下の方法がおすすめです。
低リスク重視の方 | 国内債券 外国債券 |
---|---|
利回り重視の方 | 投資信託 ヘッジファンド |
それぞれ解説します。
国内債券
日本円で発行される債券を指します。日本国債が代表的で、発行者により利息と償還金の支払いが約束されている商品です。発行者が破綻しない限り、満期まで持てば損をしません。
リスクの低い商品ですが、利回りも低い傾向があります。
外国債券
外貨で発行される債券です。こちらも発行者が破綻しない限り利息や償還金が支払われますが、基本的にすべて外貨で支払われます。したがって為替リスクがあります。
利回りは国内債券より高い傾向があり、特に高金利通貨は高い利回りが付きます。その分為替リスクも大きくなる傾向があるので注意しましょう。
投資信託
株式などで運用される商品です。つみたてNISAや確定拠出年金でも投資できますが、銀行や証券会社で直接投資することもできます。
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ヘッジファンド
投資信託と同じように、株式などで運用される商品、または運用会社そのものを指します。
仕組みは投資信託と似ていますが、より高度な運用戦略を行う点に特徴があります。多くのヘッジファンドは“買い”と同時に“売り”を仕掛け、相場下落時でも利益獲得が期待できます。投資信託は基本的に“買い”しか行いません。
ヘッジファンドは最低投資額が大きい点にも特徴があります。投資信託は100円からでも購入できますが、ヘッジファンドは数千万円以上の投資が求められることが一般的です。
最低投資額はヘッジファンドにより異なりますが、余裕資金が1,000万円以上ある方に許された選択肢といえるでしょう。
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まとめ
本記事の内容を以下にまとめます。
- ゆとりある老後生活には年金のほかに5,000万円が必要
- 利回りがあると5,000万円到達しやすい&利回りには投資が不可欠
- 若い方や家計に余裕がある方は投資がおすすめ
公的な調査から、ゆとりある老後生活には年金のほかに5,000万円程度の資金が必要です。大きな金額ですが、投資を通じてある程度の利回りを得ると5,000万円に到達しやすくなります。
ただし、すべての方に投資をおすすめできるわけではありません。リスクを取れる方のうち、年齢が若い方や家計に余裕がある方は投資を前向きに検討しましょう。