「ミリオネア」はお金持ちを指す言葉ですが、これは100万ドルの資産を持っている方を指します。大まかに1ドル=100円と計算し1億円以上持っている方をミリオネアと呼ぶケースもあるでしょう。
1億円は大金です。
野村総研の「NRI富裕層アンケート調査」によると、純金融資産が1億円を超える世帯は全体の約2.5%しかありません。ミリオネアを1人見つけたら、そうでない人が39人見つかる計算です。
しかし、資産運用すれば1億円を手にすることも夢ではありません。むしろ、計算すると1億円到達に必要な利回りは難しくないものだとわかります。
1億円を目指す場合にはどのようなポートフォリオを組めばよいか、また1億円到達後はどのような運用を行えばよいか、本記事で確認しましょう。
ポートフォリオとは
まずはポートフォリオの概要について解説します。
ポートフォリオ=資産の組み合わせ
ポートフォリオとは資産の組み合わせのことです。「株式60%、債券40%」といったように、複数の資産を組み合わせたものをポートフォリオと呼びます。
ポートフォリオの例
イメージしやすいよう、具体的なポートフォリオの例を確認しましょう。例えば「日本生命」は集めた保険料を以下のようなポートフォリオで運用しています。
構成比 | |
---|---|
公社債 | 36.10% |
外国証券 | 29.20% |
国内株式 | 14.50% |
不動産 | 2.30% |
※2020年度末
※「外国証券」は債券や株式のほか、ヘッジファンドなどオルタナティブ資産も含む
生命保険会社は将来の保険金支払いに備えて運用するため極端に大きなリスクは取りません。ポートフォリオも比較的リスクが低い「公社債」が多くを占めました。その分利回りも低くなり、同社の多くの保険商品の予定利率は1%を下回っています(2021年7月2日時点)。
「ハーバード大学」も大学運営のため、基金を以下のポートフォリオで運用しています。
構成比 | |
---|---|
非上場株式 | 34% |
ヘッジファンド | 33% |
株式(上場) | 14% |
不動産 | 5% |
債券 | 4% |
※2021年6月末時点
ハーバード大学の特徴は非上場株式やヘッジファンドといった「オルタナティブ資産」の比率が大きいという点です。これらは株式など一般的な資産との連動性が低く、独立したリターンが期待できます。ハーバード大学はこれらオルタナティブ資産を活用し、基金の設立以来11%程度の利回りを得てきました。
ポートフォリオの基本的な考え方
ポートフォリオの構成比はどれくらいの利回りを得たいかによって判断しましょう。大きな利回りを得たいなら大きな利回りを得られる資産の構成比を引き上げることが基本で、逆も然りです。
どうしてそうすべきなのでしょうか?理由は、ポートフォリオの利回りは以下のように計算できるためです。
【資産Aと資産Bで構成されるポートフォリオの利回り】
(資産Aの利回り×資産Aの構成比)+(資産Bの利回り×資産Bの構成比)
具体的に計算してみましょう。資産Aと資産Bの利回りをそれぞれ1%・5%と仮定し、資産Aを70%、資産Bを30%組み入れたポートフォリオを構築する場合の計算は以下のとおりです。
1%×70%+5%×30%
=0.7%+1.5%
=2.2%
この計算を構成比ごとにまとめると以下のようになります。利回りが高い資産Bの構成比が高いほどポートフォリオの利回りを向上することがわかります。
資産A(利回り:1%) | 資産B(利回り:5%) | ポートフォリオの利回り |
---|---|---|
70% | 30% | 2.20% |
50% | 50% | 3.00% |
30% | 70% | 3.80% |
ここで気をつけたいのは、高い利回りが期待できるからといって1つの資産に集中投資してはいけないということです。複数の資産でポートフォリオを構成することで各資産が互いに値動きを相殺し、リスクが下がる効果が期待できます。これを「分散投資効果」といいますが、1つの資産だけで運用すると分散投資効果がうまく働きません。
野心的な利回りを目指すなら集中投資も1つの選択肢ですが、基本的には複数の資産でポートフォリオを構築しましょう。
主な資産の参考利回り
ポートフォリオを作るためには各資産の大まかな利回りを知っておくことが大切です。ここでは以下4つの資産について参考になる利回りをご紹介します。
- 株式
- 債券
- 不動産
- ヘッジファンド
株式
株式は過去の実績が参考になるでしょう。国内株式は過去3年間、1年あたり約11%の利回りを得てきました。先進国の株式の場合はさらに大きく、19%以上の利回りを得ています。新興国株式は一般的にハイリスク・ハイリターンですが、過去3年間では利回りが国内株式や先進国株式を下回りました。
参考利回り | 参照指数 | |
---|---|---|
国内株式 | 11.22% | 日経平均トータルリターンインデックス (直近3年 年率) |
先進国株式 | 19.41% | MSCI先進国株式指数(円建 グロス) (直近3年 年率) |
新興国株式 | 9.63% | MSCI新興国株式指数(円建 グロス) (直近3年 年率) |
※2022年1月末時点
これらはあくまで過去の実績のため、将来を保証するものではありません。あくまでポートフォリオ作りの参考にとどめておいてください。
債券
債券は満期まで保有したときの元本と利息を加味した「最終利回り」が参考になるでしょう。国内債券は0.2%と決して高くありませんが、先進国債券では0.91%、新興国債券では4.27%となりました。債券をポートフォリオに組み入れる場合、海外のものも選択肢になりそうです。
参考利回り | 参照指数 | |
---|---|---|
国内債券 | 0.20% | NOMURA-BPI総合指数 (最終利回り) |
先進国債券 | 0.91% | FTSE先進国国債指数 (最終利回り) |
新興国債券 | 4.27% | FTSE新興国国債指数 (最終利回り) |
※2022年1月末時点
不動産
不動産投資は日本不動産研究所の「不動産投資家調査(2021年10月)」から賃貸住宅(一棟)における期待利回りを参考にしましょう。地域によって異なり、東京は3.8~4.3%となりましたが、地方ではさらに高い利回りを期待しているようです。
ワンルーム | ファミリー向け | |
---|---|---|
東京(城南地区) | 4.00% | 3.80% |
東京(城東地区) | 4.30% | 3.90% |
札幌 | 5.30% | 5.50% |
横浜 | 4.50% | 4.80% |
名古屋 | 4.80% | 5.00% |
大阪 | 4.60% | 4.70% |
福岡 | 5.00% | 5.00% |
※2021年10月時点
※ワンルーム:築年数5年未満、平均専用面積25~30平方メートル
※ファミリー向け:築年数5年未満平均、専用面積50~80平方メートル
ヘッジファンド
ヘッジファンドは主に機関投資家や富裕層向けの運用会社です。
リスクを抑えた運用を行う傾向にあるため、こちらは利回りだけでなくリスクも参考にしましょう。運用戦略ごとに異なりますが、その多くでTOPIX(配当込み)よりもリスクあたりのリターンが大きくなっていることがわかります。
参考利回り …(イ) | リスク …(ロ) | イ÷ロ | |
---|---|---|---|
株式ロングショート | 10.34% | 5.04% | 2.05 |
マルチストラテジー | 7.04% | 3.19% | 2.21 |
アービトラージ | 5.05% | 1.57% | 3.22 |
イベント・ドリブン | 13.20% | 4.79% | 2.76 |
参考)配当込みTOPIX | 12.74% | 10.51% | 1.21 |
※2021年12月時点
※参考利回りとリスクは過去1年間の実績
これから資産運用で1億円を目指すポートフォリオ
今ある資産を運用し、1億円を目指す場合のポートフォリオを考えてみましょう。
1億円到達に必要な利回り
まずは目指すべき利回りがわからないとポートフォリオに組み入れるべき資産の判断ができません。1億円到達に必要な利回りは、(1)運用開始する資産が大きいほど、(2)運用期間が長いほど下がります。
運用期間 | ||||
---|---|---|---|---|
10年 | 20年 | 30年 | 40年 | |
1,000万円 | 25.90% | 12.20% | 8.00% | 5.90% |
2,000万円 | 17.50% | 8.40% | 5.50% | 4.10% |
3,000万円 | 12.80% | 6.20% | 4.10% | 3.10% |
4,000万円 | 9.60% | 4.70% | 3.10% | 2.30% |
5,000万円 | 7.20% | 3.50% | 2.30% | 1.70% |
運用資産が小さく運用期間も短いと必要な利回りが高くなり、実現が難しくなるでしょう。例えば1,000万円を10年で1億円にするためには1年あたり25.9%もの利回りが必要ですが現実的とはいえません。
十分な運用資産を用意できない場合は運用期間を延ばし必要な利回りを下げましょう。必要な利回りが1桁台にまで下がれば実現可能性が高くなると思われます。
利回り7~10%を目指すポートフォリオの例
7~10%と比較的高い利回りを目指す場合、組み入れる資産も比較的利回りが高いものを選ばなければいけません。株式やヘッジファンドの構成比が高くなるでしょう。以下のようなポートフォリオを組んでみてはいかがでしょうか。
- 株式:60%
- ヘッジファンド:30%
- 債券:10%
各資産の利回りを株式10%、ヘッジファンド7%、債券1%とした場合、このポートフォリオの利回りは8.2%となります。2,000万円で1億円を目指す場合、およそ21年で到達する計算です。
さらに大きな利回りを目指す場合、債券の比率を下げ、株式やヘッジファンドの比率を上げるといいでしょう。
利回り計算過程
株式+ヘッジファンド+債券
=10×60%+7×30%+1×10%
=6%+2.1%+0.1%
=8.2%
利回り3~5%を目指すポートフォリオの例
3~5%といった中程度の利回りを目指す場合、ヘッジファンドや不動産といったミドルリスクの資産がポートフォリオの主役となるでしょう。
- 株式:10%
- ヘッジファンド:30%
- 不動産:40%
- 債券:20%
同じく各資産の利回りを株式10%、ヘッジファンド7%、不動産4%、債券1%とした場合、このポートフォリオの利回りは4.9%です。4,000万円をこの利回りで計算するとおよそ20年で1億円に到達するでしょう。
利回り計算過程
株式+ヘッジファンド+不動産+債券
=10×10%+7×30%+4×40%+1×20%
=1%+2.1%+1.6%+0.2%
=4.9%
利回り1~3%を目指すポートフォリオの例
1~3%のように比較的低い利回りを目指す場合、債券を中心にポートフォリオを組むといいでしょう。
- ヘッジファンド:20%
- 不動産:10%
- 債券:70%
各資産の利回りをヘッジファンド7%、不動産4%、債券1%とした場合、このポートフォリオの利回りは2.5%となります。5,000万円を運用すればおよそ29年で1億円に到達するでしょう。
利回り計算過程
ヘッジファンド+不動産+債券
=7×20%+4×10%+1×70%
=1.4%+0.4%+0.7%
=2.5%
今ある1億円を資産運用するポートフォリオ
すでに1億円に到達している方は、今後の方向性によって組むべきポートフォリオは異なるでしょう。すなわち(1)現状維持か(2)さらに増やすかです。
現状維持の場合はインカムゲイン重視のポートフォリオとなるでしょう。インカムゲインとは定期的な収入のことで、株式の配当金や不動産の家賃収入などが該当します(⇔キャピタルゲイン:元本の上昇による売却益)。
インカムゲインで生活し、元本を取り崩さない状態が理想といえるでしょう。
運用してさらに増やす場合、1億円を目指す場合と基本的に同じです。目標金額から必要な利回りを計算しポートフォリオを構築しましょう。
インカムゲイン重視のポートフォリオ
インカムゲインを重視する場合、不動産がポートフォリオのメインとなるでしょう。不動産から得られる家賃収入は入居者との契約によるものなので、基本的に安定しています。ただし入居者が現れない空室リスクには注意が必要です。
債券の金利も基本的に変動しないため、インカムゲイン重視の際は債券も選択肢となります。ただし低金利のため国内には魅力的な銘柄は少ないかもしれません。破綻リスクが比較的高い債券や外国債券は金利が高い傾向にあるため、それらの銘柄も検討しましょう。
2億円、3億円を目指すポートフォリオ
1億円を運用し、2億円や3億円への到達を目指す場合の必要利回りは以下のとおりです。
運用期間 | |||
---|---|---|---|
10年 | 20年 | 30年 | |
目標:2億円 | 7.2% | 3.5% | 2.3% |
目標:3億円 | 11.6% | 5.6% | 3.7% |
10年で3億円を目指す場合を除き、必要利回りは1桁台に落ち着きました。1億円を貯めた方にとって、2億円や3億円は決して難しくないといえるでしょう。
上記を参考にポートフォリオで目指すべき利回りを把握し、それに応じた資産を組み入れましょう。
資産運用で気をつけたい3つこと
資産運用に臨む際に気をつけたい以下3つについて解説します。
- 分散投資を心がける
- インフレを加味する
- 金融機関の勧誘を真に受けない
分散投資を心がける
上述のとおり、複数の資産に分けて投資するとリスクが下がる効果を「分散投資効果」といいます。資産運用はこの分散投資を基本に行いましょう。反対に特定の資産に集中投資するとリスクが大きくなるため注意が必要です。
現実的な利回りなら分散投資でも十分実現できるでしょう。株式や債券といった資産の別、国内や海外といった地域の別に気をつけて資金を分けるようおすすめします。
インフレを加味する
インフレとは物価上昇のことです。インフレは物価を上昇させるため、相対的にお金の価値を下げてしまう効果に気をつけなければいけません。仮に利回り1%で運用しても、1%のインフレが起これば相殺され実質的な利回りはゼロです。
インフレは必ず起こるわけではありませんが、歴史的に物価は上昇してきました。また日本銀行も2%程度のインフレを目指して金融政策を行っています。資産運用を行う場合、インフレに負けない利回りを目指すよう心がけましょう。
金融機関などの勧誘を真に受けない
具体的な投資行動は金融機関や不動産会社を介して行いますが、窓口となる担当者から勧誘やアドバイスを受けるケースもあるでしょう。そういった勧誘はうのみにせず、自分で冷静に判断するようおすすめします。
これは金融機関などに限らず、さまざまな場面に当てはまります。知人や友人からの情報のほか、テレビやインターネットといったメディアからの情報もそうです。受け取った情報に基づいてそのまま投資を実行するのではなく、きちんと自分で調べ納得してから資産運用に臨みましょう。
まとめ
本記事の内容を以下にまとめました。
- ポートフォリオは資産の組み合わせのこと
- 集中投資よりも分散投資を心がける
- 高利回りを目指すなら株式やヘッジファンドの比率を上げる
- 低い利回りで目標に到達できるなら債券の比率を上げる
ポートフォリオは資産の組み合わせのことです。複数の資産を組み合わせることで分散投資効果が働き、リスクが下がる効果が期待できます。これから1億円を目指す場合でも、1億円をこれから運用する場合でも複数資産でポートフォリオを構築しましょう。
ポートフォリオの利回りは組み入れる資産によって決定されます。ポートフォリオ全体で高い利回りを目指す場合、株式やヘッジファンドといった高利回りの資産がポートフォリオのメインとなるでしょう。反対に高い利回りを目標としてない場合、債券の比率を高くすることが基本です。
運用目標と運用期間から逆算した必要利回りを参考に、最適なポートフォリオを構築しましょう。