
気がつかないうちに、手元の現金や預金の「使える力」はじわじわと削られています。
長期インフレのもとでは、ただ貯金しているだけでは購買力が目減りしていく可能性が高いからです。
この記事では、日銀の2%インフレ目標や金利正常化の流れを整理しながら、
なぜ外国株式と外国REITがインフレ対策として有力なのかを、仕組み・過去の実績・新NISAでの具体的な組み方まで踏み込んで解説します。
「まずは預金の一部を、新NISAのつみたて枠で全世界株式をコアに据え、成長投資枠で外国REITを少し加えてみる」
そんな一歩目のイメージを持ちながら、次のポイントを一緒に確認していきましょう。
長期インフレ時代と、目減りしていく現金の価値
これからの時代、資産形成において最も意識すべきは「インフレ」による現金の価値の目減りです。
インフレには急激に進む短期インフレと、じわじわと影響が広がる長期インフレがあり、特に後者が私たちの資産に大きな影響を与えます。
日銀が2%のインフレ目標を掲げている今、現金の購買力が将来どれだけ変わるのか、具体的なシミュレーションで確認していきましょう。
現金や預金だけを持つことは、安全どころかインフレに対して無防備な状態であることを理解することが、資産防衛の第一歩となります。
性格が異なる短期インフレと長期インフレ
一口にインフレと言っても、その原因や期間によって「短期インフレ」と「長期インフレ」に分けられます。
例えば、2022年からの急激な円安や国際情勢の変化によるエネルギー価格の高騰は、短期間で物価を押し上げる「短期インフレ」の典型です。
一方で、日本銀行が目指しているのは、賃金の上昇を伴いながら毎年2%程度の物価上昇が緩やかに続く「長期インフレ」の世界なのです。
| 項目 | 短期インフレ | 長期インフレ |
|---|---|---|
| 主な原因 | 為替変動(円安)、資源価格の高騰、供給網の混乱 | 賃金上昇、堅調な需要、緩やかな金融政策 |
| 期間 | 数ヶ月〜1、2年程度 | 数年〜数十年単位 |
| 特徴 | 特定の品目の価格が急騰、生活への影響が急激 | 経済全体で物価が緩やかに上昇、現金の価値が徐々に目減り |
| 対策例 | 外貨建て資産での為替ヘッジ | 株式や不動産など成長資産への投資 |
急な値上げで家計を直撃する短期インフレも厄介ですが、より深刻なのは、気づかないうちに資産の実質的な価値を削り取っていく長期インフレだと言えます。
日銀が目指す2%インフレ目標と金融政策の正常化
日本銀行が掲げる「物価安定の目標」とは、消費者物価の前年比上昇率で2%を持続的・安定的に実現することです。
これは、長年続いたデフレから完全に脱却し、賃金と物価がそろって緩やかに上昇していく「好循環」を目指すものです。
2024年3月にはマイナス金利政策の解除を決定しましたが、これは経済の「引き締め」ではなく、異常な状態から「正常な状態」へと戻すための第一歩と位置づけられています。
| 年月 | 主な政策変更 | 目的・背景 |
|---|---|---|
| 2013年4月 | 量的・質的金融緩和(異次元緩和)の導入 | 2%の物価安定目標の早期実現 |
| 2016年1月 | マイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入 | 金融緩和の強化、デフレマインドの払拭 |
| 2016年9月 | 長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の導入 | 金融緩和の持続性向上 |
| 2024年3月 | マイナス金利政策の解除 | 賃金と物価の好循環の実現が見通せる状況になったため |
つまり、私たちは「物価が毎年2%上がることが当たり前」の世界を前提に、お金との付き合い方を考えていく必要があります。
インフレ率2%が続いた場合の現金の購買力シミュレーション
購買力とは、持っているお金でどれだけのモノやサービスが買えるかを示す力のことです。
インフレはこの購買力を直接的に低下させます。
もし現在の100万円を、金利がほぼ0%の銀行預金に入れたまま、毎年2%のインフレが続いた場合、その価値は10年後には約82万円、20年後には約67万円まで目減りします。
| 経過年数 | 100万円の実質的な価値(購買力) |
|---|---|
| 現在 | 1,000,000円 |
| 5年後 | 約906,000円 |
| 10年後 | 約820,000円 |
| 20年後 | 約673,000円 |
| 30年後 | 約552,000円 |
このシミュレーションが示すように、現金や預金をただ持っているだけでは、将来必要になる教育資金や老後資金が、気づいた時には足りなくなってしまうという現実を直視しなければなりません。
なぜ外国株式・外国REITがインフレ対策の主役なのか
インフレ対策では、物価の上昇をただ乗り切るだけでなく、それを上回るリターンを目指す「攻め」の姿勢が重要です。
ここでは、全世界株式が持つ過去の実績、インフレ環境下でも利益を伸ばせる企業の仕組み、そして物価と連動しやすい不動産(REIT)の強みという3つの観点から、外国株式と外国REITがなぜ主役たりえるのかを解説します。
| 資産クラス | インフレへの強さ(仕組み) | 主な収益源 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 外国株式 | 企業の利益成長、価格転嫁 | 値上がり益、配当金 | 世界経済の成長を直接取り込める |
| 外国REIT | 家賃収入の物価連動性 | 分配金、値上がり益 | 安定したインカム収益が期待できる |
これらの資産は、インフレに負けないどころか、インフレを追い風にして資産を成長させる力を持っています。
全世界株式がインフレを上回るリターンを出してきた過去の実績
全世界株式とは、その名の通り世界中の企業の株式にまとめて投資することを指します。
過去のには、その圧倒的な力を示しています。
例えば、1991年から2024年までの約33年間で、日本の消費者物価指数(CPI)が約1.17倍になる中、全世界株式(MSCI ACWI Index、配当込み・円換算ベース)は約17倍にも成長しました。
現金や預金がインフレによって実質的な価値を失う一方で、全世界株式がインフレをはるかに上回るリターンを生み出してきた歴史的な事実を物語っています。
企業の利益成長がインフレを乗り越える株式の仕組み
株式がインフレに強い根本的な理由は、企業が「利益を生み出す仕組み」そのものに投資するからです。
インフレで原材料費や人件費が上昇しても、多くの企業は製品やサービスの価格にコスト上昇分を転嫁できます。
例えば、2022年以降、食品メーカーのカルビーや飲料メーカーのサントリー食品インターナショナルは、相次いで商品の値上げを発表しましたが、業績は堅調に推移しました。
このように、企業の売上と利益がインフレに伴って増加すれば、それが株主へのリターンとなり、株価の上昇につながります。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 物価上昇(インフレ) | 原材料費や人件費などのコストが増加 |
| 価格転嫁 | 企業が製品やサービスの価格を引き上げ |
| 売上・利益の増加 | コスト増を上回る価格転嫁に成功すれば、名目上の利益が増加 |
| 株価上昇 | 企業の利益成長が評価され、株価に反映される |
つまり株式投資とは、インフレ環境を乗り越えて成長できる企業のオーナーになることであり、物価上昇の波に乗って資産を増やすための有効な手段なのです。
物価と連動しやすい家賃収入が強みの不動産投資信託(REIT)
REIT(リート)とは「不動産投資信託」のことで、投資家から集めた資金でオフィスビルや商業施設、マンションなどの不動産を購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する金融商品です。
REITがインフレに強い最大の理由は、収益の源泉である家賃にあります。
一般的に、物価が上がると家賃も上昇する傾向があり、実際に日本のオフィスビル賃料も、経済成長期や物価上昇局面では緩やかに上昇してきました。
この物価との連動性が、インフレ下でも安定した分配金収入を期待できるREITの魅力です。
| REITの強み | 具体的な内容 |
|---|---|
| 安定したインカム収益 | 賃料という継続的なキャッシュフローが収益の柱 |
| 物価との連動性 | 経済の成長やインフレにあわせて賃料が上昇しやすい |
| 不動産価値の上昇 | インフレは土地や建物の資産価値そのものを押し上げる効果も期待できる |
| 高い分配金利回り | 利益のほとんどを分配するため、比較的高い利回りが魅力 |
株式とは異なる値動きをしながらも、インフレに強い特性を持つREITを資産に加えることで、ポートフォリオ全体のリスクを抑えつつ、安定的な収益を目指せます。
インフレ対策として「外国株式」と「外国REIT」が万能に近い理由
これからのインフレ時代を乗り切るためには、短期的な円安と長期的な物価上昇という、性質の異なる2つのインフレに同時に対応できる資産を持つことが最も重要です。
外国株式と外国REITがその有力な候補となります。
具体的に、短期的な円安と長期的な物価上昇への両面からの備えがどのように機能するのか、為替リスクを味方につける通貨分散の発想、そして守りの資産である金(ゴールド)との役割の明確な違いについて、詳しく見ていきましょう。
この二つの資産を組み合わせることで、あらゆるインフレ局面に対してバランスの取れたポートフォリオを構築できます。
短期的な円安と長期的な物価上昇への両面からの備え
私たちの生活を脅かすインフレには、実は2つの顔があります。
輸入価格の上昇による短期的な円安インフレと、国内の賃金や物価がじわじわ上がる長期的な物価上昇インフレです。
例えば、海外からの原油や食料品の価格が上がるのは円安インフレの影響が大きいです。
一方で、日銀が目標とする2%の物価上昇が定着すれば、毎年少しずつサービスの値段が上がっていく長期インフレの世界になります。
外国株式や外国REITは、この両方に効果を発揮します。
| インフレの種類 | 主な要因 | 資産への影響(円建て) | 外国株式・外国REITの役割 |
|---|---|---|---|
| 短期的な円安インフレ | 為替レートの変動(円安) | 輸入物価が急騰 | 外貨建て資産のため、円安で資産価値が上昇(円安ヘッジ) |
| 長期的な物価上昇インフレ | 賃金・物価の好循環 | 現金・預金の購買力が低下 | 企業の利益成長や家賃収入の上昇により、物価上昇を上回るリターンを期待 |
このように、一つの資産クラスで二つの異なるリスクに対応できる点が、外国株式と外国REITの最大の強みです。
為替リスクを「通貨分散」として味方にする発想
外貨建ての資産を持つと聞くと、多くの人が「為替リスク」を心配します。
これは、円高になると外貨建て資産の円換算額が目減りする可能性のことです。
しかし、20年、30年という長期的な視点で考えると、このリスクはむしろ「通貨分散」という強力な武器に変わります。
資産をすべて日本円だけで持っている状態は、日本円という一つの通貨に全財産を賭けているのと同じだからです。
日本の経済状況や金利動向によっては、円の価値が他の通貨に対して下がり続ける可能性も否定できません。
短期的には円高になる局面もありますが、長期的に資産を守るためには、円だけに依存しないポートフォリオを組むことが不可欠です。
為替リスクはコントロールできない敵ではなく、賢く付き合うべき仲間と捉えましょう。
守りの資産「金(ゴールド)」との役割の明確な違い
インフレ対策としてよく名前が挙がる資産に「金(ゴールド)」があります。
金は、それ自体が価値を持つ「実物資産」であり、世界情勢が不安定になったときに買われる傾向があります。
しかし、外国株式や外国REITとの決定的な違いは、金はそれ自体が付加価値を生まないという点です。
企業のように利益を生み出すことも、不動産のように家賃収入をもたらすこともありません。
100グラムの金は、10年後も100グラムのままなのです。
| 資産クラス | 主な役割 | 価値の源泉 | おすすめの保有割合 |
|---|---|---|---|
| 外国株式・外国REIT | 資産を「増やす」(攻め) | 企業の利益成長、配当、家賃収入 | ポートフォリオの主役(コア) |
| 金(ゴールド) | 資産を「守る」(守り) | 希少性、普遍的な価値 | ポートフォリオの補完(サテライト、5〜10%程度) |
金融危機などの「もしも」の時に資産価値を守る保険として少量保有するのは有効ですが、長期的なインフレに打ち勝ち資産を増やしていく主役は、あくまで価値を生み出す外国株式と外国REITと考えるのが合理的です。
新NISAで始めるインフレに負けない資産ポートフォリオ
インフレに負けない資産形成を実現するには、新NISAを最大限活用することが重要です。
特に、資産の土台となる「コア」と、それを補い分散効果を高める「サテライト」に分けてポートフォリオを考えることが成功への近道となります。
この記事では、資産の土台(コア)として「eMAXIS Slim 全世界株式」を、分散効果を高めるサテライト資産として「SMT グローバルREITインデックス」を組み合わせる具体的な方法を紹介します。
最後に、日本株や預金も含めた資産全体のバランスの重要性についても解説します。
| 投資信託名 | 役割 | 投資対象 | 新NISAでの活用枠 |
|---|---|---|---|
| eMAXIS Slim 全世界株式(オールカントリー) | コア | 世界中の株式 | つみたて投資枠/成長投資枠 |
| SMT グローバルREITインデックス・オープン | サテライト | 世界中の不動産 | 成長投資枠 |
この「コア・サテライト戦略」を取り入れることで、世界経済の成長を長期的に恩恵を受けながら、異なる値動きをする不動産を組み合わせてリスクを抑える、インフレに負けない安定したポートフォリオを築くことが可能です。
「eMAXIS Slim 全世界株式」でつくる資産の土台(コア)
ポートフォリオの「コア」とは、資産形成の中核を担い、長期的かつ安定的なリターンを目指す部分を指します。
その代表格となるのが、「eMAXIS Slim 全世界株式(オールカントリー)」です。
この投資信託1本で、日本を含む先進国から新興国まで、全世界約47カ国の約3,000銘柄に手軽に分散投資ができます。
つまり、これ一つで世界経済全体の成長の恩恵をまるごと受け取れる仕組みになっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 投資対象 | 全世界の株式(日本を含む先進国・新興国) |
| 連動指数 | MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス |
| 信託報酬(年率) | 0.05775%以内 |
| 新NISAでの活用 | つみたて投資枠・成長投資枠 |
まずは新NISAのつみたて投資枠を使い、生活に無理のない範囲でこのファンドを毎月コツコツと積み立てていくことが、インフレに負けない頑丈な資産の土台を築く第一歩です。
「SMT グローバルREITインデックス」で加える分散効果(サテライト)
コア資産を補完する「サテライト」とは、コア資産とは異なる値動きをする資産を加え、ポートフォリオ全体のリスクを抑えながらリターンの上乗せを狙う部分のことです。
サテライト資産として有効なのが、株式とは異なる収益源を持つ不動産です。
「SMT グローバルREITインデックス・オープン」のような投資信託は、世界中のオフィスビルや商業施設などから得られる家賃収入が利益の源泉となります。
このため、株式市場が不安定な局面でも価格が安定しやすく、株式への集中投資リスクを和らげる効果が期待できます。
日本株や預金も含めた資産全体のバランスの重要性
外国株式や外国REITは強力なインフレ対策になりますが、資産のすべてを外貨建て資産に偏らせるのは、新たなリスクを生むことになります。
私たちは日本に住み、円で生活費を支払います。
将来使うお金が円である以上、為替変動の影響を受けない円建ての資産も一定割合で保有し、資産全体のバランスを取ることが大切です。
例えば、資産の20%〜30%程度は日本株や現金・預金で保有するなど、自分なりのルールを決めましょう。
| 資産クラス | 役割 | ポートフォリオの目安割合 |
|---|---|---|
| 外国株式 | 資産成長のコア(世界の成長を取り込む) | 50% |
| 外国REIT | 分散効果(株式と異なる値動き) | 20% |
| 日本株式 | 国内経済成長の享受 | 10% |
| 現金・預金 | 生活防衛資金・いざという時の備え | 20% |
年に1回など定期的にご自身の資産配分を確認し、当初決めた割合から大きくずれていたら調整(リバランス)を行うことで、長期にわたり安定した資産形成を実現できます。
まとめ
長期インフレが前提となる時代では、「現金=安心」というこれまでの感覚を一度疑ってみる必要があります。
金利が正常化していく中で、日銀の2%目標が定着すれば、現金と預金だけでは購買力の低下を避けることはできません。
その一方で、世界の企業の利益成長に連動する外国株式と、家賃収入に支えられた外国REITは、インフレと相性の良い資産と言えます。
新NISAを活用し、全世界株式をコア、外国REITをサテライトとして組み合わせれば、インフレに耐性のあるポートフォリオを非課税で作ることが可能です。
まずは預金の一部を、新NISAのつみたて枠と成長投資枠に振り向けるところから、自分なりの「インフレに負けない仕組みづくり」を始めてみてください。

















