ファンドラップの手数料はなぜ高い?三重構造の仕組みと実質リターンを解説

金融庁発表のデータによるとファンドラップの残高は近年増加傾向です。テレビCMでも見かけることが増えたので気になっている方も多いのではないでしょうか。

しかしファンドラップは手数料が高く、必ずしもおすすめできる商品ではありません。本記事ではファンドラップ手数料の「三重構造の仕組み」を紹介し、なぜファンドラップの手数料が高いのか解説します。

またファンドラップの平均リターンと全投資信託の平均リターンを比較し、「ファンドラップは高い手数料に見合うだけのリターンを得られるのか」についても理解を目指します。

ファンドラップとは

机の上のノートパソコンと手

中程度の精度で自動的に生成された説明そもそもファンドラップはどういうサービスなのでしょうか。

ファンドラップを分解すると、「ファンド=投資信託」、「ラップ=ラップ口座」となります。ラップ口座は投資一任サービスの1つで、金融機関が顧客の資金を代わりに運用する商品です。その中でも特に「投資信託だけで運用するラップ口座」をファンドラップといいます。

ファンドラップ手数料(三重構造の仕組み)

ファンドラップ手数料(三重構造の仕組み)

ファンドラップの手数料が高い理由は、手数料が三重にかかる構造になっているためです。具体的には以下の手数料がかかります。

  • 投資顧問料
  • 残高手数料
  • ファンドの信託報酬

それぞれ確認しましょう。

1.投資顧問料

「投資顧問料」は運用をおまかせする費用です。以下2つの種類があります。

  • 固定報酬型
  • 成果報酬型

「固定報酬型」は残高に対し一定の率で発生するタイプです。運用状況にかかわらず一律なので、運用で大きく資産が伸びたときも費用の負担が増えません。

一方「成果報酬型」は固定報酬と成果報酬の併用です。残高全体に対して固定の低い率で手数料が発生する部分と、運用で増えた部分に対して高い率で手数料が発生する部分があります。運用がうまくいかないときは低い費用負担で済みますが、大きく資産が伸びたときは費用の負担も増えます。

2.残高手数料

「残高手数料」は資産の管理手数料です。ファンドラップでは金融機関に資産を預けますが、その資産の管理や取引を代行してもらうことに対する費用という位置づけです。

金融機関によっては「ファンドラップ手数料」としていますが、ファンドラップ手数料の全体像ではないので注意しましょう。上述した投資顧問料が別にかかります。また残高手数料の設定がない金融機関もありますが、投資顧問料に含まれていると考えたほうがいいでしょう。

これら「投資顧問料」と「残高手数料」がラップ口座を契約する金融機関に支払う手数料です。ファンドラップの場合、さらにファンド自体の費用「信託報酬」がかかるので注意しましょう。

3.ファンドの信託報酬

信託報酬はファンドの運用手数料です。ファンドを直接運用する「運用会社」、契約の窓口となる「販売会社」、ファンドの資産を管理する「受託会社」の3社で発生し、その合計を実質的に投資者が負担しています。

まとめると、ファンドラップは「投資顧問料」「残高手数料」「ファンドの信託報酬」という3つの手数料がかかるため、手数料が高いのです。

ファンドラップ手数料の具体例

ファンドラップ手数料の具体的な例を確認してみましょう。主要な3つのファンドラップにおける手数料を以下にまとめました。

投資顧問料 残高手数料 ファンドの信託報酬
野村
ファンドラップ
固定:0.418%
成果:0.209%+11%
1.32% 1.35%±0.7%
日興
ファンドラップ
0.33% 0.99% 2.69%
MUFG
ファンドラップ
固定:0.385%
成果:0.165%+11%
1.16% 2.20%

※手数料に幅がある場合、最大値を記載

上記はいずれも最大値を記載していますが、1年で3%以上の手数料がかかることがわかります。毎年3%以上のリターンでやっと利益になる計算です。決して安い水準ではありません。

ただ、いかに手数料が高くてもその分大きな利回りを得られるなら問題はないはずです。果たしてファンドラップは手数料に見合うだけのリターンを提供できているのでしょうか。次章で解説します。

ファンドラップは儲かるのか

ファンドラップは儲かるのか

ファンドラップは高い手数料に見合うだけのリターンを提供できているのか、ここでは金融庁の調査から明らかにしたいと思います。

平均リターンは1.6% 国内全ファンドの平均を下回る

ファンドラップは投資信託で運用する商品です。もしファンドラップが優秀な運用を行っているなら、投資信託の単純平均よりも大きなリターンを提供できているでしょう。

結論からいうと、ファンドラップは手数料に見合うだけのリターンを提供できていないようです。ファンドラップと全投資信託における過去5年の平均リターンを以下にまとめました。ファンドラップの費用控除前リターンは全投資信託の平均と一致し、費用控除後では半分程度のリターンしか残っていません。

ファンドラップ&全投資信託 平均リターン(2020年12月末時点)
過去5年リターン(年率)
ファンドラップの平均(費用控除前) 3.20%
ファンドラップの平均(費用控除後) 1.60%
全投資信託の平均 3.20%

手数料の割には儲からないファンドラップ

上記の調査から、ファンドラップは手数料が高く、その高い手数料に見合うだけのリターンを提供できていないといえそうです。

ファンドラップ残高は上昇していますが、実績を考えれば積極的に選ぶような商品とはいえないでしょう。

ファンドラップのメリットは?

ファンドラップのメリットは?

ファンドラップにメリットはないのでしょうか。客観的にいえば、ファンドラップには以下2つのメリットがあるといえます。

  • リスクは低い
  • 最低投資額が比較的小さい

ファンドラップは投資信託に分散投資していますが、そもそも投資信託が分散投資を行っている商品です。分散投資効果が二重にかかるためリスクは低くなるでしょう。上述した金融庁のデータでも、ファンドラップのほうが全投資信託よりリスクが低くなりました。

  • ファンドラップのリスク:6.7%
  • 全投資信託のリスク:14.2%

※2020年末時点における過去5年実績リスク

また最低投資額が比較的小さい点もメリットといえます。もともとラップ口座は数千万円以上の資金を預けられる富裕層向けの商品でした。ファンドラップなら多くが数百万円から資金を受け入れています。より少額で運用を一任できる点はメリットといえるでしょう。

ファンドラップよりヘッジファンドがおすすめ

ファンドラップよりヘッジファンドがおすすめ

ファンドラップを検討している方には「ヘッジファンド」をおすすめします。ファンドラップと同程度のリスクながら、ファンドラップより大きなリターンが期待できるためです。

ここでヘッジファンドの概要とパフォーマンスについて確認しましょう。

ヘッジファンドとは

ヘッジファンドもファンドラップと同じく、投資一任サービスの1つです。顧客の資産を預かり、顧客に代わって運用します。ファンドラップは投資信託だけで運用しますが、ヘッジファンドはさまざまな商品で運用を行う点もポイントです。

ヘッジファンドは特に「売り」を仕掛ける点に特徴があります。値下がりで利益を得られる取引で、相場全体が下落傾向であっても利益機会を得ることができます。つまり、相場の影響を受けない点がヘッジファンドの強みです。

ファンドラップと同程度のリスク&ファンドラップより大きなリターン

ヘッジファンドはファンドラップと同程度のリスクながら、ファンドラップよりも大きなリターンが期待できます。ヘッジファンドの直近パフォーマンスを以下にまとめたので参考に見てみましょう。

ヘッジファンド 運用戦略別パフォーマンス(2020年7月~2021年6月)
リスク リターン
株式ロングショート 7.35% 30.57%
イベント・ドリブン 6.36% 28.46%
マネージドフューチャーズ 5.72% 12.54%
アービトラージ 2.44% 9.97%
リラティブバリュー 3.99% 17.44%

本記事で紹介したファンドラップのリスクは6.7%、費用控除前リターンは3.2%でした。計算の時期が異なるので単純な比較はできませんが、ヘッジファンドのほうが同程度の(あるいは低い)リスクで高リターンを実現できたことがわかります。

最低投資額はファンドラップより若干高い

一概にはいえませんが、ヘッジファンドの最低投資額は約1,000万円です。ファンドラップは数百万円から資金を預け入れられるため、ヘッジファンドのほうが若干敷居が高いといえます。

ただファンドラップにも数千万円を最低投資額とするタイプがあるため、大きな差とはいえないでしょう。

「同程度のリスク」「より大きなリターン」「あまり差がない最低投資金額」。

これら3点から考えると、ファンドラップよりもヘッジファンドのほうが客観的におすすめできます。ファンドラップを検討している方はぜひヘッジファンドを選択肢に入れましょう。

ヘッジファンド手数料は「2:20」

最後にヘッジファンドの手数料についても確認しておきましょう。

典型的なヘッジファンド手数料が「2:20モデル」と呼ばれるもので、固定報酬が2%、成果報酬が20%という意味です。ファンドラップにおける成果報酬型の「投資顧問料」と同じような仕組みになっています。

手数料体系はヘッジファンドによってさまざまですが、多くは成果報酬型を採用しています。資金を預ける前に確認しておくといいでしょう。

コストもコストパフォーマンスも良くないファンドラップ

コストもコストパフォーマンスも良くないファンドラップ

本記事の内容を以下にまとめます。

  • ファンドラップは「投資顧問料」「残高手数料」「ファンドの信託報酬」がかかる
  • 三重構造になっているためファンドラップは手数料が高い
  • リターンが手数料に見合っていない
  • ファンドラップならヘッジファンドのほうがおすすめ

ファンドラップは手数料が高く、手数料に見合うリターンを得ていません。資産運用をおまかせできる点は強みですが、資金の預け先としてはあまり魅力的とはいえないでしょう。

同じ投資一任サービスならヘッジファンドのほうがおすすめです。両者を冷静に把握し、自分に最適なほうを選びましょう。

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