年収が高くなると重くなってくるのが税金です。年収1,000万円の人はどれくらいの税金を支払っているのでしょうか。税金を「所得税(国税)」「住民税(地方税)」、さらに「社会保険料」に分けて計算する必要がありますが、複雑でよくわかりにくいですよね。
この記事では、年収1,000万での税金がどのような仕組みでいくらになっているのかを分かりやすく解説し、増税の影響や効率的な税金対策に加え、おすすめの税金対策もご紹介します。年収1,000万円の方はもちろんですが、そうでない方もぜひ参考にしてください。
年収1,000万円の税金っていくらくらい?
ここでは年収1,000万の税金がどのくらいなのかを細かく分解して、分かりやすく解説していきます。事例も交えて説明してきますが、ご自身のパターンにも照らし合わせながらみていきましょう。
「社会保険料」「所得税(国税)」「住民税(地方税)」はそれぞれいくら?
私たちの社会的な負担は、税金だけでなく社会保険も一般に負担しています。年収1,000万円の方は、それぞれどれくらい負担しているのか計算してみましょう。計算は以下を前提に行います。
【計算の前提】
- 年収1,000万円
- 給与所得者
- 年俸制(賞与なし 給与額面:84万円)
- 40歳 専業主婦の配偶者、16歳の子1人
- 特別な節税対策なし
社会保険料は「健康保険」+「年金」で年130万円
まずは年収1,000万円の方の社会保険料を計算しましょう。社会保険料は「健康保険料」と「厚生年金保険料」に分かれます。年俸制なので、月の給与額面は84万円とします。
給与所得者の社会保険料は、給与額面を社会保険の保険料額表に当てはめて算出します。東京都の場合、給与額面が84万円だと、健康保険料では40等級、厚生年金保険料では32等級(最上級)にあたります。
40歳以上の方は健康保険料に介護保険料も上乗せされます。したがって、40等級の方が給与から支払う健康保険料は月に48,389円です。年間では約58万円となります。
次に厚生年金保険料を考えます。32等級の方が給与から支払う厚生年金保険料は月に59,475円です。年間では約71万円です。
上記の計算から、年収1,000万円の方は、社会保険料を年間約130万円支払っているといえます。
社会保険には「雇用保険」もありますが、こちらの労働者側の負担は0.3%程度です。年収1,000万円だと年間3万円程度で、他2つの社会保険料と比較すると小さい負担です。本記事では割愛します。
所得税は約104万円、住民税は約57万円
次は所得税と住民税を計算しましょう。所得税の計算は以下のようになります。
額面から給与所得控除を引く | 1,000万円―195万円=805万円 |
---|---|
②所得控除を引く | 805-(130万円+38万円+38万円+48万円) =551万円 ※内訳 社会保険料控除:130万円 配偶者控除:38万円 扶養控除:38万円 基礎控除:48万円 |
③残差を所得税の速算表に当てはめ、 基準所得税を計算 | (551万円―42万7,500円)×20%=101万6,500円 |
④基準所得税に2.1%を掛け、 復興特別所得税を計算 | 101万6,500円×2.1%=2万1,346円 |
⑤ ③+④を合計し、 100円未満を切り捨て | 101万6,500円+2万1,346円=1,037,846円 ※所得税 103.78万円 |
参考:国税庁HPよりそれぞれ参考にしています
まずは給与額面から、給与所得控除を計算します。給与所得控除は、給与所得者が誰でも利用できるみなし経費で、年収850万円超の方は一律195万円です。
次に所得控除を引きます。今回の例では「社会保険料控除(社会保険料と同額)」「配偶者控除」「扶養控除」「基礎控除」が利用できます。
引いた金額を国税庁HPの「所得税の速算表」に当てはめて、基準所得税を計算します。算出の数字に2.1%を掛けると「復興特別所得税」が算出でき、基準所得税との合計から100円未満の金額を切り捨てた金額が所得税です。前提に則って計算すると、所得税は約104万円です。
次に住民税です。住民税は地域で計算方法が異なる場合がありますが、概ね以下の手順で計算します。
①額面から給与所得控除を引く | 1,000万円―195万円=805万円 |
---|---|
②所得控除を引く | 805-(130万円+33万円+33万円+43万円) =566万円 ※内訳 社会保険料控除:130万円 配偶者控除:33万円 扶養控除:33万円 基礎控除:43万円 |
③残差に10%を掛け、 「算出所得割額」を計算 | 566万円×10%=56.6万円 |
④算出所得割額から調整控除を引き、 「差引所得割」を計算 | 56.6万円-0.25万円=56.35万円 |
⑤「均等割」を足して住民税を算出 | 56.35万円+0.5万円=56.85万円 |
参考
額面から給与所得控除を引くところまでは同じです。次いで所得控除を引くのですが、金額が所得税計算の際より小さくなる所得控除がある点に注意が必要です。
所得控除を引いた金額から10%(都道府県税:4%、市町村税:6%)を掛け、「調整控除(所得控除が小さい分、税額を下げる処置)」を引いて「所得割」を計算します。
最後に「均等割(所得に関わらない固定の住民税)」を足します。上記の例では、住民税は約57万円になりました。
上記から、年収1,000万円の方の所得税と住民税の合計は約160万円だと計算できました。
年収1,000万円の方の手取りは約700万円
これまで年収1,000万円の方の「社会保険料」と「税金」を計算してきました。それらを給与額面から引いた金額、いわゆる「手取り」を考えると約700万円だと計算できます。収入の約30%が社会負担に回っています。
国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、給与の年間収入の平均は約400万円です。上述の計算の前提を年収部分のみ400万円に変え計算すると、収入の約20%が社会負担になっています。年収1,000万円の方が10%程度重い負担になっています。
2020年から年収850万円以上の方は増税に
税制が変更され、2020年から年収850万円以上の方は増税されました。どのように増税されたのか、具体的に見ていきましょう。
増税①年収850万円以上の「給与所得控除」の引き下げ
2020年から「給与所得控除(給与所得者のみなし経費)」が以下のように変更されました。
- 一律10万円引き下げ
- 上限が「年収1,000万円以上―220万円」から「年収850万円以上―195万円」に引き下げ
給与所得控除は大きいほど税金が小さくなるので、増税の影響があります。ただし、給与所得控除の10万円引き下げはほとんどの方に影響がありません。「基礎控除」が一律10万円引き上げられたためです。詳しくは後述します。
問題は上限の引き下げです。これまで年収が1,000万円を超えるまでは給与所得控除は220万円まで上昇しましたが、850万円以上は一律195万円となりました。年収850万円超の方は給与所得控除の引き下げ幅が大きくなるため、増税となります。
年収850万円 | 年収1,000万円 | |||
---|---|---|---|---|
~2019年 | 2020年~ | ~2019年 | 2020年~ | |
①給与所得控除 | 205万円 | 195万円 | 220万円 | 195万円 |
②基礎控除 | 38万円 | 48万円 | 38万円 | 48万円 |
①+② | 243万円 | 243万円 | 258万円 | 243万円 |
控除の減少額 | ― | ±0 | ― | ▲15万円 |
増税②年収1,095万円超の「配偶者控除(配偶者特別控除)」引き下げ
配偶者控除は所得から38万円引いてくれる制度ですが、2020年から所得制限が付きました。給与所得控除を引いた金額が900万円を超えると引き下げが始まり、1,000万円を超えると0になります。逆算すると、年収1,095万円超の方が増税の対象です。
配偶者控除の額 | |
---|---|
所得900万円以下(年収1,095万円以下) | 38万円 |
所得900万円超(年収1,095万円超) | 26万円 |
所得950万円超(年収1,145万円超) | 13万円 |
所得1,000万円超(年収1,195万円超) | 0 |
増税③年収2,400万円超の「基礎控除」引き下げ
基礎控除は一律10万円引き上げられました。給与所得控除が10万円引き下げられましたが、基礎控除の引き上げで相殺され、ほとんどの方に影響がありません。
しかし、所得が2,400万円を超えると基礎控除の引き下げが始まり、2,500万円を超えると0になります。控除が少なくなるので、増税の影響があります。
基礎控除の額 | |
---|---|
所得2,400万円以下(年収2,595万円以下) | 48万円 |
所得2,400万円超(年収2,595万円超) | 32万円 |
所得2,450万円超(年収2,645万円超) | 16万円 |
所得2,500万円超(年収2,695万円超) | 0 |
参考:基礎控除|国税庁
年収1,000万円プレーヤーは税金対策すべき2つの理由
多くの年収を稼ぐ方は、そうでない方よりも税金対策を検討すべき理由があります。2つにポイントを絞り、確認しましょう。
理由1:増税された
前章でお伝えしたように、年収が高い方は2020年から増税されます。なにも対策しないと前年より手取りが減りますので、家計収支が悪化する可能性が上がります。
理由2:税率が高いので税金対策の効果が大きい
もう1つの理由は、税金対策の効果が大きくなりやすいという点です。
所得税の税率は5~45%の範囲で決定され、所得が大きいほど税率が上昇する「累進課税」方式が採られています。当然税率が高いほど税負担が大きいのですが、節税の効果も税率が高いほど大きくなります。
参考に、節税策として10万円の所得控除を利用すると仮定し、それぞれ税率での節税額を確認してみましょう。
所得控除の額 | 10万円 | 10万円 | 10万円 |
---|---|---|---|
税率 | 5% | 20% | 45% |
節税額 | 0.5万円 | 1万円 | 4.5万円 |
所得控除の額が同じでも、税率が高いほど節税額が大きくなりました。税率が高いほど節税の効率も高くなるので、高年収の方は税金対策をおすすめします。
年収1,000万円の人は知っておくべき節税効率が高い税金対策
税金対策にはさまざまな種類がありますが、効率的に行うなら節税効果の高いものから優先すべきです。節税効果の高い税金対策を確認しましょう。
1:税額控除
税金対策で最も節税額が大きくなるのが「税額控除」です。これまで紹介してきた所得控除は、所得控除の額の一部までしか節税できません。一方、税額控除の場合、納める税金から税額控除の額を直接引いてくれます。控除の額が同じでも、税額控除の方が大きく節税できます。
所得控除が10万円 | 税額控除が10万円 | |
---|---|---|
税率 | 5~45% | ― |
節税額 | 0.5~4.5万円 | 10万円 |
住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)
税額控除の代表的な存在が「住宅借入金等特別控除」、いわゆる「住宅ローン控除」です。新築住宅を取得する際に銀行の特定のローンを活用した場合、年末時点のローン残高の1%分を税額控除できます。
控除の上限は40万円、認定住宅なら50万円まで控除できます。控除できる年は通常10年間までですが、2019年10月~2020年12月末までの入居された方は、消費増税の対策として13年間控除を受けられる特例があります。
参考:住宅を新築又は新築住宅を購入した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
寄付金控除(ふるさと納税)
「ふるさと納税」の方が知名度は高いかもしれませんが、ふるさと納税は「ワンストップ特例」を利用した「寄付金控除」を指します。寄付額から2,000円引いた金額が住民税から税額控除されます。条件は以下の通りです。
- 確定申告をしない
- 5団体以上の自治体に寄付しない
上記の条件を守らないと、通常の寄付金控除(所得控除)となるので注意しましょう。
参考
2:所得控除 効率的なのは「人的控除」
所得控除も、節税効率が高いものや低いものがあります。最も効率的なのは「人的控除」です。
人的控除とは、配偶者控除や扶養控除など、支出不要で節税できる所得控除です。支出がないわけですから、収支が必ずプラスになります。支出が伴う所得控除は、単年で考えると基本的に支出の方が節税額より大きくなってしまいます。
概要 | 控除額 | |
---|---|---|
配偶者控除/配偶者特別控除 | 収入が一定以下の配偶者がいる場合に受けられる | 最大38万円 |
扶養控除 | 収入が一定以下で、16歳以上の親族を扶養している場合に受けられる | 最大63万円 |
支出が必要だが、後で返って来る所得控除
人的控除はコントロールが難しいデメリットがあります。一方、支出が伴う所得控除を「物的控除」といいますが、こちらはコントロールしやすい傾向にあります。
上述しましたが、物的控除の所得控除は、単年では基本的に収支がマイナスになります。ですが、支出分が後から返って来るならどうでしょうか。実質的に支出がないのと同義なので、トータルでは収支がプラスに転じます。
支出が後で返って来る所得控除には「小規模企業共済等控除(確定拠出年金)」や「生命保険料控除」などがあります。選択の余地はありませんが、年金として返って来る部分の「社会保険料控除」も同じカテゴリーといえるでしょう。
概要 | 控除額 | |
---|---|---|
小規模企業共済等控除 | 確定拠出年金に拠出すると受けられる 原則60歳以降に受け取れる | 拠出の全額 |
生命保険料控除 | 民間の生命保険に加入すると受けられる 満期金などで受け取れる | 拠出の一部 ※年間2万円までは全額 |
「選択型DC(確定拠出年金)」なら社会保険料も減らせる
少し上述しましたが、確定拠出年金に加入すると掛け金の全額が所得控除になります。拠出した金額も60歳以降に受け取れるので、所得控除の中では効率的な税金対策といえます。
確定拠出年金には「企業型」と「個人型(iDeCo)」がありますが、企業型の場合、社会保険料も減らせる場合があります。ポイントは企業型が積み立てるお金がどうかです。企業がお金を積み立てる部分は社会保険料の対象外です。
将来お金を受け取るのは従業員なのですから、たとえ確定拠出年金への拠出金だとしても、実質的に給与の意味合いがあります。従業員にとって、給与として受け取るよりも、確定拠出年金への積み立て金として受け取った方が手取りは増えます。
企業型には自分の給与から確定拠出年金へ積み立てる「マッチング拠出」を導入している企業もありますが、この場合、社会保険料は減らないので注意しましょう。
事業主が従業員のために積み立てる拠出金 | 税金:非課税 社会保険料:非課税 | 給与として受け取る前に積み立てるイメージ 給与ではないので税金も社会保険も対象外 |
---|---|---|
従業員が自分の給与から積み立てる拠出金(マッチング拠出) | 税金:非課税 社会保険料:課税 | 給与としていったん受け取った後に積み立てるイメージ 税金は所得控除で取り戻せるものの、社会保険の対象に |
年収1,000万円の人におすすめの税金対策
給与所得者で年収が1,000万円以上の方におすすめの節税策を2つご紹介します。
おすすめの節税1:確定拠出年金 勤め先に制度があるなら「企業型」を優先
給与所得者の方には確定拠出年金がおすすめです。掛け金が全額所得控除になる上、積み立て金は将来返って来ます。
積み立て金は受け取りまで運用します。運用方法は加入者が指定するので、いくらで返って来るかは運用の結果次第です。リスク商品で運用しなければ元本の保全性は高いでしょう。
確定拠出年金は「個人型」より「企業型」を優先しましょう。個人型は「国民年金基金連合会」や金融機関に支払う手数料が発生しますが、企業型は原則手数料無料です。
おすすめの節税2:個人年金保険
後でお金が返って来る所得控除として生命保険料控除を紹介しましたが、低金利の影響を受け、通常の保険だとお金があまり返って来ません。
保険を節税目的で活用する場合、「個人年金保険」がおすすめです。保障機能はほとんどなく、貯蓄機能に特化した保険です。
個人年金保険を契約する際には「返戻率」に注意しましょう。100%を超えているなら保険料の全額が返って来ることを意味しているので、節税の収支は必ずプラスになります。
まとめ
年収1,000万円の方の税金と社会保険の負担は以下のようになり、手取りは概ね700万円です。
【年収1,000万円の社会負担(税金+社会保険)】
- 所得税:約104万円
- 住民税:約57万円
- 社会保険料:約130万円
税金対策は「税額控除」や「人的控除」で節税の効果が高いですが、コントロールしにくい面もあります。確定拠出年金など、後で支出した分が返って来る所得控除などを活用しましょう。